楕円(だえん)銀河M87は中心に巨大ブラックホールを持つことで知られています。このM87の中心から噴出するジェットについて、過去20年以上にわたる観測で得られた多数の画像を分析した結果、ジェットが噴出する方向が約11年周期で変化していることが分かりました。さらに観測結果を理論シミュレーションと比較した結果、巨大ブラックホールの自転が引き起こすジェットの歳差運動(首振り運動)に起因する現象であることが明らかになりました。M87の巨大ブラックホールが自転していることを示すとともに、強力なジェットの発生にブラックホールの自転が深く関与していることを裏付ける成果です。
多くの銀河の中心には巨大ブラックホールが存在します。なかには、周りのガス円盤から物質が降り積もって銀河の中心核が明るく輝いたり、ジェットを噴出したりする活動的な銀河も多く観測されています。楕円銀河M87の中心のブラックホールはその代表格で、近年の研究ではブラックホールシャドウやガス円盤の姿が捉えられています。一方、このブラックホールが自転しているかどうかについては観測から見極めることが難しく、自転のはっきりした証拠は得られていませんでした。
国立天文台の研究者を中心とし多数の研究機関の研究者から成る国際研究チームは、東アジアVLBIネットワーク(East Asian VLBI Network、EAVN)などの観測網によって過去20年以上にわたって得られた170枚にも及ぶM87のジェットの電波画像を分析しました。その結果、ジェットの噴出方向が約11年周期で変化していることが分かりました。ジェットが噴出する向きが変化していることはこれまでにも知られていましたが、その周期性が明らかになったのは初めてです。
今回の研究の中心となった、中国・之江実験室の崔玉竹(ツェイ ユズ)研究員は、「20年以上にもわたる気の遠くなるほどの膨大なデータを一つ一つ丁寧に分析することが、今回の新たな発見につながりました」と語ります。
このジェットの変化の原因を突き止めるため、研究チームは、国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を用いた理論シミュレーションを行い、観測結果と比較・考察しました。その結果、このジェットの変化は、自転するブラックホールが周囲の時空を引きずることで生じる、円盤とジェットの歳差運動としてうまく説明できることが分かったのです。「ブラックホールとジェットに対する私たちの理解に、大きな進展がもたらされたのです」と、研究チームの一員である工学院大学の紀 基樹(きの もとき)客員研究員は語ります。
大学院生時代の崔氏の研究を指導し、研究チームの中心を務める国立天文台水沢VLBI観測所の秦 和弘(はだ かずひろ)助教は、「短期的な研究成果の創出が求められる昨今にあって、今回の成果は、長年の地道なデータの積み重ねが大きな発見につながることを示す好例と言えます」とコメントしています。
研究チームは今後もM87ジェットの観測を続け、ブラックホールとジェットのつながりや、ブラックホールの自転の速度を正確に導き出すことを目指しています。
Journal
Nature
Method of Research
Observational study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Pre cessing jet nozzle connecting to a spinning black hole in M87
Article Publication Date
27-Sep-2023