銀河の中心で極めて明るく輝く天体「クエーサー」の形成過程が、すばる望遠鏡による大規模サーベイ観測で多数捉えられています。この形成過程と、ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡が発見した新しい種類の天体とに、密接な関係があることが明らかになりました。地上望遠鏡による大規模サーベイと宇宙望遠鏡による観測とがタッグを組んで得た成果です。
ほぼすべての銀河の中心には巨大ブラックホールが存在しています。巨大ブラックホールの形成や成長の過程は、現代天文学が挑んでいる謎の一つです。巨大ブラックホールに落ち込むガスが極めて明るく輝く「クエーサー」と呼ばれる天体が知られていますが、このクエーサーの形成過程については、次のような理論的シナリオが考えられています。ガスが豊富な銀河同士が合体すると、銀河中心の巨大ブラックホールが塵(ちり)に包まれます。その後、ブラックホールに激しく落ち込むガスからの放射が塵を吹き飛ばすと、中心にある明るく輝くクエーサーが姿を現します。しかし、この過程は短時間であり、かつ可視光線では暗いことから、これまで観測的な検証は困難でした。
信州大学や国立天文台等の研究者から成る研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ(HSC)を用いた大規模な戦略枠観測プログラムで得た可視光線の観測データと、米国が打ち上げた広視野の赤外線天文衛星で得た中間赤外線の観測データを用いて、塵に包まれた段階の銀河「ドッグ(DOG)」(Dust-Obscured Galaxy)を、およそ100億光年から110億光年の距離に571個も発見しました。その中には、塵を吹き飛ばし始めて青く輝いている「ブルドッグ(BluDOG)」(Blue-excess DOG)8個が含まれていました。ブルドッグでは外向きのガスの流れも捉えられたことから、クエーサーの形成過程の理論的シナリオに沿った姿を垣間見たと考えることができます。
さらに研究チームは、米国のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が120億光年から130億光年の距離に発見した、極めて赤い色の新しい種類の天体「ERO」(Extremely Red Object)が、ブルドッグと似た特徴を持つことに気が付きました。宇宙が始まって間もない、言わば宇宙の夜明けの時代にも、ブルドッグが存在しクエーサーへと進化していったと推測できます。
研究チームを率いた信州大学の登口暁(のぼりぐち あかとき)研究員は、「ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡の最新データにいち早く適切な解析と解釈をすることができたのは、すばる望遠鏡による大規模サーベイで得られた知見があってこそでした」と語ります。
ブルドッグとEROの間には相違点もあり、クエーサーの形成過程の全容を解明するためには、今後も観測天体のサンプルを増やしたり、詳細な観測を続けたりする必要があります。研究チームは、地上の望遠鏡による大規模サーベイと、宇宙望遠鏡等による詳細な観測とを組み合わせて、今後も巨大ブラックホールの形成や成長の過程についての研究を進めていくことを目指しています。
Journal
The Astrophysical Journal Letters
Method of Research
Observational study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Similarity between Compact Extremely Red Objects Discovered with JWST in Cosmic Dawn and Blue-excess Dust-obscured Galaxies Known in Cosmic Noon
Article Publication Date
14-Dec-2023