<概要>
豊橋技術科学大学 機能性材料科学研究室とエジプト石油研究所の研究チームは、ユニークな形態を有する酸化亜鉛ナノパゴダアレイを透明電極上に形成し、さらにその表面に銀ナノ粒子を修飾することで、新規な高機能光電極を開発しました。酸化亜鉛ナノパゴダは、サイズの異なる六角柱が積み重なった形状であり、多くのステップ構造を有することが特徴です。また、結晶欠陥が極めて少なく、電子伝導性に優れています。酸化亜鉛ナノパゴダアレイ光電極に銀ナノ粒子を修飾することで、可視光吸収特性が付与され、太陽光照射下で機能する光電極としての利用を可能とします。
<詳細>
クリーンなエネルギーである水素を製造する技術の1つとして、太陽光を利用した光電気化学的水分解の活用が期待されています。この技術のキーマテリアルである光電極には、高い太陽光吸収効率や電荷の移動効率に加えて、水分解反応に対する低い過電圧を有することなどが求められます。また、主となる素材にレアアースやレアメタルを使用しないことや、作製プロセスが産業化に適していることなども実用上重要になってきますが、それらすべての要求を満足する材料は開発されていません。
そこで研究チームは、原料枯渇の心配がない、価格が安価、高い電子伝導性を有するなどの特徴を持つ酸化亜鉛ナノパゴダアレイに注目しました。酸化亜鉛ナノパゴダアレイは、そもそも再現性良く作製することが困難とされていたため、筆頭著者である博士後期課程3年のMarwa Abouelelaを中心に、まずはその合成プロセスを最適化し、高い再現性の確保を実現しました。得られた光電極の光電気化学特性を評価したところ、疑似太陽光照射下で比較的大きな光電流が得られるとわかりました。これは、低欠陥量に伴う高い電荷移動効率と、多くのステップにおける高い表面化学反応活性に加えて、ナノパゴダの特異なナノ構造が入射光に含まれる紫外線を効率的に取り込むことができるということが電磁界解析等から明らかとなりました。
さらに研究チームは、太陽光の55%を占める可視光の有効利用に向けて、表面プラズモン共鳴を示す銀ナノ粒子を、酸化亜鉛ナノパゴダ表面に修飾することで、光電気化学特性の一層の向上を試みたところ、銀ナノ粒子修飾前に比べて約1.5倍の光電流が得られるとわかりました。光電流値の作用スペクトルから、この光電気化学特性の向上が、主に銀ナノ粒子の表面プラズモン共鳴による可視光吸収によって引き起こされる熱電子移動に帰属するものであることがわかりました。銀ナノ粒子の修飾方法を最適化することで、酸化亜鉛ナノパゴダ自体の特性への悪影響をなくして、光電気化学特性のみを向上できることもわかりました。
<開発秘話>
責任著者の一人である河村剛准教授は、以下のように言います。「当初、酸化亜鉛ナノパゴダは、その高い電荷移動効率を利用した電子銃エミッターへの応用のみが検討されていました。ただ、その構造が多くのステップを有していることから、表面化学反応に対する活性が高く、光電気化学反応を起こすのに適しているのではないか、というのが最初のアイデアでした。実際にナノパゴダの作製に成功した後、太陽光利用効率を向上するために、表面プラズモン共鳴を示す銀ナノ粒子を修飾し、その効果を電磁界解析によって評価したのですが、その際に酸化亜鉛ナノパゴダには、入射光、特に紫外線を酸化亜鉛の内部に取り込む特性があることがわかりました。これは全く想定していなかったものでしたが、光電気化学特性の向上に寄与する特性であり、幸運な発見でした。」
<今後の展望>
現在Marwaと同研究室の学生が中心となり、酸化亜鉛ナノパゴダの精密構造制御や、銀ナノ粒子以外の物質による表面修飾を行うことで、光電気化学特性にどのような影響があるかを調べています。酸化亜鉛は光溶解性のために、単体では長時間の太陽光照射に耐えられないため、表面修飾による耐久性の向上が現在の主なテーマとなっています。高い光電気化学特性と耐久性の両立が実現できた際には、実環境(太陽光による河川水や海水の分解)における水分解水素製造を行い、実課題の抽出をする予定です。
<論文情報>
Abouelela MM, Kawamura G, Tan WK, Amiruldin M, Maegawa K, Nishida J, Matsuda A (2024) Ag nanoparticles decorated ZnO nanopagodas for photoelectrochemical application. Electrochemistry Communications, 10.1016/j.elecom.2023.107645.
<謝辞>
本研究はJSPS科研費21K18823、21K18824、22K04737、及び、カシオ科学振興財団、ENEOS東燃ゼネラル研究奨励・奨学会の助成を受けたものです。
Journal
Electrochemistry Communications
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Ag nanoparticles decorated ZnO nanopagodas for Photoelectrochemical application
Article Publication Date
2-Dec-2023