東邦大学医学部の杉本南助教、朝倉敬子教授、西脇祐司教授らの研究グループは、東京都東南部にある8事業所の従業員を対象に質問票調査を行い、就労者が摂取する昼食の栄養学的特徴を明らかにしました。本研究は、就労者において、健康的な食生活の促進に役立つ可能性があります。
この研究成果は2024年1月6日に雑誌「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に発表されました。
発表者名
杉本 南(東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 助教)
朝倉 敬子(現:東邦大学医学部社会医学講座予防医療学分野 教授、
研究当時:同講座衛生学分野 准教授)
森 幸恵(東邦大学大学院医学研究科 博士課程4年)
篠崎 奈々(東京大学大学院医学系研究科 特任助教)
村上 健太郎(東京大学大学院医学系研究科 教授)
今村 晴彦(長野県立大学健康栄養科学研究科 准教授)
西脇 祐司(東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野 教授)
発表のポイント
- 手作りの弁当あるいは社員食堂で主に昼食をとっている人は、外食やテイクアウトの昼食が中心の人と比べると比較的昼食の栄養学的な質が高い(健康的である)ことが示されました。
- 日本人就労者における昼食の栄養学的特徴を明らかにした初めての研究です。
- 就労者における健康的な食生活の実践に資する情報を示しました。
発表内容
背景
就労者は、1日の多くの時間を職場で過ごします。シフト勤務者を除けば、フルタイム勤務者は職場および職場周辺で昼食を食べることが多く、1日のエネルギー摂取量のおよそ3分の1は昼食が寄与していることを考えると、職場環境の中で適切な食事をとることは、就労者の健康的な食生活を促進するために不可欠です。しかし、就労者の昼食の栄養学的な特徴を調べた研究は限られています。
目的
食事を準備する場所や喫食場所は、食事の内容に関連する可能性が示唆されています。そこで、本研究では、日本人就労者が摂取する昼食の栄養学的特性が、昼食が準備される場所・喫食される場所によってどのように異なるかを調べるとともに、就労関連の特性がどのように異なるかについても比較しました。
方法
本研究グループは、2022年10月に東京都東南部にある8事業所の従業員892名(20~75歳)に対してMeal-based Diet History Questionnaire(MDHQ)を含む質問票調査を行いました。MDHQは、食事(朝食、昼食、夕食、間食)ごとに、主な食品・栄養素の過去1か月間の摂取量を把握できる、3つのパートからなる食事歴法質問票です。MDHQから算出された栄養素摂取量と食品群摂取量をもとに、栄養学的な食事の質を示すスコアであるHealthy Eating Index-2015(HEI-2015)を計算しました。
HEI-2015は、アメリカ人のための食事ガイドライン2015〜2020年版の順守度を評価するための尺度(100点満点)で、スコアが高いほど食事全体の質が高いことを示します。
質問票を用いて、普段昼食を準備してくれる人、昼食を食べる場所、昼食にかける金額、食べ始める時刻を尋ねました。さらに、就労に関連する因子として、職種と週当たりの就労時間を尋ねました。
質問票への回答が得られた675人のうち、分析に必要な項目がある620人を解析対象者とし、昼食が普段準備されている場所・喫食している場所に対する回答から、手作り群(190人)、社員食堂群(77人)、外食群(109人)、テイクアウト群(244人)の4群に分けました。まず、4群間で、性別や年齢などの基本情報、昼食にかける金額、食べ始める時刻、職種と週当たりの勤務時間を比較しました。さらに、年齢と性別、Body Mass Index、喫煙習慣、職種、就労時間を調整したうえで、栄養素摂取量、食品群摂取量、HEI-2015スコアを4群間で比較しました。
結果
外食群とテイクアウト群は、年齢が若い傾向があり、手作り群は女性の割合が高い傾向がありました。外食群とテイクアウト群は、手作り群、社員食堂群に比べて、販売・サービス職の割合が高く、就労時間が長い傾向がありました。費用は手作り群、社員食堂群の方が安い傾向があり、外食群、テイクアウト群では、13時以降に食べ始める人が多い傾向がありました。
HEI-2015を4群間で比較すると、社員食堂群が最も高く(平均49.6、標準偏差0.9)、手作り群(平均47.4、標準偏差0.6)がその次でした。栄養素摂取量を比較すると、手作り群は、外食群とテイクアウト群に比べて、ビタミンA、チアミン、リボフラビン、ビタミンB6、亜鉛の摂取量が高く、同様に、社員食堂群はビタミンA、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛と銅の摂取量が外食群とテイクアウト群に比べて多いことがわかりました。
さらに、食品群摂取量を比較すると、手作り群は外食群やテイクアウト群よりも、米類と卵類の摂取量が多く、社員食堂群は、外食群やテイクアウト群よりも、米類、いも類、豆類、野菜類、魚類、肉類の摂取量が多いことがわかりました。
結論
昼食を、主に手作りの弁当あるいは社員食堂でとっている人は、外食やテイクアウトの昼食が中心の人と比べると、比較的昼食の栄養学的な質が高い(健康的である)ことが示されました。社員食堂での昼食の提供は、手作りの昼食を準備することが難しい就労者において、健康的な食生活の促進に役立つ可能性があります。
発表雑誌
雑誌名
「Journal of Occupational and Environmental Medicine」66巻1号:e17-e25. (2024年1月6日)
論文タイトル
The Nutritional Characteristics of Usual Lunches Consumed Among Japanese Workers: Comparison Between Different Lunch-Type Groups
著者
Minami Sugimoto, Keiko Asakura*, Sachie Mori, Nana Shinozaki, Kentaro Murakami,
Haruhiko Imamura, Yuji Nishiwaki
DOI番号
10.1097/JOM.0000000000002989
アブストラクトURL
https://journals.lww.com/joem/abstract/9900/the_nutritional_characteristics_of_usual_lunches.426.aspx
Journal
Journal of Occupational and Environmental Medicine
Method of Research
Survey
Subject of Research
People
Article Title
The Nutritional Characteristics of Usual Lunches Consumed Among Japanese Workers
Article Publication Date
6-Jan-2024
COI Statement
There are no conflicts of interest associated with this publication.