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「 先天性免疫異常症に対するアレムツズマブを用いた同種造血細胞移植 」 ― アレムツズマブの有用性 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

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 The OS and GEFS of the study cohort. The solid line and the dashed line show OS and GEFS curves, respectively. OS and GEFS at 2 years post-HCT are described with 95% confidence intervals in brackets. Grade III–IV acute GVHD, systemically treated chronic GVHD, second transplantation, and death were defined as failure events for GEFS. OS, overall survival; GEFS, graft-versus-host disease-free, event-free survival.

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Credit: Department of Child Health and Development, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 発生発達病態学分野の宮本 智史助教、小児地域成育医療学講座の金兼 弘和寄附講座教授と血液内科学分野の森 毅彦教授らの研究グループは、静岡県立こども病院、北海道大学、滋賀医科大学、兵庫県立こども病院、大阪大学、京都大学、神奈川県立こども医療センター、岐阜市民病院、金沢大学、広島大学、国立成育医療研究センターとの共同研究で、先天性免疫異常症 (IEI)※1患者19名に対してアレムツズマブを前処置に使用し同種造血細胞移植※2を行った症例を解析し、アレムツズマブの有用性などを示しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(22K07887)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Clinical Immunologyに、2024年5月22日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】
 同種造血細胞移植は、IEI患者に対する根治療法として位置づけられています。毒性減弱前処置(RTC)※3は、IEIを含む非悪性疾患に対してここ数年で適用症例数が増加しています。アレムツズマブは遺伝子組み換えヒト化抗CD52モノクローナル抗体であり、リンパ球の機能を強力に抑制し、生着の促進や移植片対宿主病(GVHD)抑制のためにRTCと併用され、欧米諸国のIEI患者において有効性と安全性が実証されています。一方、アジアのIEI患者や小児における臨床経験は限られています。日本では、2020年12月にアレムツズマブが成人患者における造血細胞移植の前処置薬として承認されましたが、日本の小児患者に対する至適用量やその有用性については今まであまり評価されていませんでした。このような背景を踏まえ、本邦においてアレムツズマブを用いて造血胞移植を受けたIEI患者のデータを後方視的に解析することにより、アレムツズマブ併用RTCの臨床的有用性を評価しました。

【研究成果の概要】
 国内11施設、計19例のIEI患者(日本人15例を含むアジア人17例、片親がアジア人の混血2例)を対象としてアンケートにより臨床経過を後方視的に解析しました。移植後の観察期間の中央値は18か月でした。ドナーは、HLA半合致の両親(n=10)、HLA適合の同胞(n=2)、および非血縁者ドナー(n=7)でした。ほとんどの患者はフルダラビンとブスルファンから構成されるRTCを受け、アレムツズマブは多くの患者で0.8mg/kgを投与されました。18例の患者が生存しかつ安定した生着が得られ、重症な(グレード3-4)急性GVHDは認められませんでした。一方で、ウイルス感染は11例(58%)と比較的多く認められました。移植後の免疫再構築※4を評価するためCD4陽性T細胞の絶対数を経時的に評価したところ、移植後6か月の時点では低値(中央値241/μL)でしたが、1年にかけて改善が認められました(中央値577/μL)。ほとんどの症例で良好なドナー型キメリズム※5が得られましたが、T細胞におけるドナー型キメリズムが低く、免疫再構築も遅い症例が3例認められました。

【研究成果の意義】
 アジア人のIEI患者集団において、アレムツズマブ併用RTCを実施した同種造血細胞移植に対する後方視解析を初めて実施しました。本試験によりアレムツズマブの有効性と安全性が示されましたが、患者はしばしばウイルス感染を発症し、T細胞における免疫再構築の遅延や一部の患者においてはT細胞のドナーキメリズムの低下が認められたことから、ウイルスとT細胞特異的キメリズムの移植後の持続的なモニタリングの重要性が明らかになりました。今後、よりよい免疫再構築を目指した患者毎のアレムツズマブの至適投与量に対する知見を深めるべく、今回の研究結果を踏まえてあらたな研究を計画したいと考えています。

【用語解説】
※1先天性免疫異常症 (Inborn errors of immunity; IEI)
 先天的な遺伝子の異常により、免疫の機能に異常をきたし重症感染症、日和見感染症、血球貪食性リンパ組織球症、自己炎症性疾患、自己免疫疾患、悪性腫瘍などを発症する疾患群の総称。
※2同種造血細胞移植
 患者本人以外のドナーからの提供を受け、血液のもととなる造血細胞を患者に移植(輸注)する治療。先天性免疫異常症を含む血液疾患や悪性疾患などに対する根治療法として実施される。
※3毒性減弱前処置 (Reduced toxicity conditioning; RTC)
 ドナー由来造血細胞の生着を担保するため、多くの場合造血細胞移植前には前処置が実施される。前処置は複数の抗がん剤を含む薬剤と放射線照射などを組み合わせて実施される。古典的には患者骨髄を強度に抑制する骨髄破壊的前処置が広く実施されていたが、前処置に関連する種々の合併症が問題となっており、近年その毒性を軽減するため、フルダラビンを用いた毒性減弱前処置の適用が拡大している。

※4免疫再構築
 同種造血細胞移植後、ドナー由来の正常な免疫系が達成される状態を免疫再構築と呼ぶ。特に先天性免疫異常症に対する造血細胞移植においては疾患の治療到達目標として重要視される。アレムツズマブはT細胞を抑制する作用があり、ドナー由来のT細胞の免疫再構築も遅延させる原因になると考えられている。
※5キメリズム
 同種造血細胞移植後、ドナー由来の血球と患者由来の血球が混在することがあり、その割合をキメリズムと呼ぶ。特にドナー由来の血球の割合について言及する場合は、ドナー型キメリズムと表現する。
 


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