image: 主な研究成果。さまざまな流速下で計測された動体加速度(DBA)と酸素消費量(MO2-SMR、基礎代謝量を差し引いた酸素消費量)を図に表した。DBAを使って酸素消費量が効果的に推定可能であることが示された。 view more
Credit: 石川ほか(2025年)
エネルギーの不足は、動物の行動や進化に大きな影響を及ぼします。地球上の生命が驚くべき多様性を持っているのは、生物がエネルギーを獲得・維持する方法が多様であることが一つの要因です。をしかし、生物学においてこれほど重要な要素であるにもかかわらず、エネルギー消費量を定量化し、実証的に分析することは難しい課題となっています。
生物は、成長から認知まで、さまざまな過程でエネルギーを消費しますが、多くの動物にとって、運動は主要なエネルギー消費源です。特に高移動性の動物にとっては、運動がエネルギー消費量を推定するための重要な指標となります。
エネルギー消費の観点から動物の動きを測定するための優れた手法はすでに存在していますが、使用する機器の物理的な大きさが制限となっていました。今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)海洋生態物理学ユニットの研究チームは、エルサレム・ヘブライ大学のアマツィア・ゲニン教授との共同研究で、ディープラーニングを用いて、映像と3Dトラッキングから動物の運動中のエネルギー消費を測定する画期的な手法を開発し、その研究成果は科学誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されました。筆頭著者の石川昂汰博士は次のように話しています。「空間的な制約のない最良の測定方法は、機器の取り付けが必要であり、世界の動物種のおよそ半数には適用できませんでした。今回、映像を活用することで、動物の行動や生態の文脈で、より包括的にエネルギー消費を研究できるようになりました。」
動体加速度(DBA)は、動物が運動中に消費するエネルギー量を推定する最先端の手法として、長年にわたり活用されてきました。DBAの基本的な仕組みは、実験室内で生物の活動中の酸素消費量を測定し、その活動によってどれだけの酸素が使われたかを調べることから始まります。酸素はエネルギー消費の優れた指標です。なぜなら、有酸素呼吸を通じて、アデノシン三リン酸(ATP)(ほとんどの身体機能、特に筋肉の収縮に必要なエネルギー源となる「燃料」)を生み出すために酸素が消費されるからです。実験では同時に、加速度計を使って動物の加速度が測定されます。多くの場合、加速度と酸素消費量との間には非常に強い相関関係があるため、DBAは運動中のエネルギー消費量を高い精度で推定することができます。
野外では酸素消費量を正確に測定することができないため、実験室で較正した加速度計を利用した方法でエネルギー消費が推定されます。ただし、このような物理的な装置に依存することが、研究にとって大きな制約となっています。「観察中に動物の行動へ影響を与えず、かつ正確な測定を行うため、研究者たちは装置の重さを動物の体重の10分の1以下に抑えていました。加速度計とバッテリーを合わせた重量が10〜20グラム程度であるため、体重が100グラム未満の動物、つまり世界の脊椎動物種のおよそ半分については、これまで研究この方法の適用が困難でした。また、泳ぎや飛行といった、水や空気などの抗力の大きさに大きく依存する行動では、取り付けた機器が運動に影響を与える可能性があります」と、石川博士は説明します。
この問題に対して、研究チームが提案した解決策は、非常に単純明快なものです。物理的な加速度計の代わりに、2台のカメラを使って行動を複数の角度から撮影し、3次元空間における動きを再構築します。今回の研究では、水槽内を泳ぐデバスズメダイの映像が使用されました。撮影された映像の一部のフレームを使って、ニューラルネットワークを訓練し、魚の目など、体の特徴的な部位の位置を正確に追跡できるようにします。これによって、研究チームは運動に関連する加速度を測定しました。
フィールド環境と実験室の両方で、カメラを使って動物の動きを捉えることで、エネルギー消費量を推定できます。例えば、動画ベースのDBAは、動物の集団行動を研究する際に活用可能です。「小型魚の群れが泳いでいるときのエネルギー消費については、未だにわかっていないことが多いです」と石川博士は話します。「例えば、先頭を泳ぐ魚は、他の魚よりも多くのエネルギーを使っているのか? あるいは、群れとして移動することで、全体としてエネルギー効率が上がっているのか? そして、こうしたことが魚の群れ行動の生態学的意義や進化にどのような示唆を与えるのか?」
動画ベースのDBAによって、これまで技術的な制約から測定が難しかった小型の動物種――世界の脊椎動物種のおよそ半数を占める――についても、自由に行動している状態でエネルギー消費量を正確に測定できるようになります。この研究成果により、地球上の生命の多様性を解明する新たな研究の扉が開かれる可能性があります。
Journal
Journal of Experimental Biology
Method of Research
Imaging analysis
Subject of Research
Animals
Article Title
Use of videos to measure dynamic body acceleration as a proxy for metabolic costs in coral reef damselfish (Chromis viridis)
Article Publication Date
10-Apr-2025
COI Statement
The authors declare no competing or financial interests.