image: Nipponopterus mifunensis, a newly identified pterosaur known from a single neck vertebra, once soared through the ancient skies of what is now Japan.
Credit: Zhao Chuang
概 要
日本の翼竜の記録は比較的少なく、白亜紀層からいくつかの断片標本が知られている にすぎません。この度、中国石河子大学 周 炫宇 博士、御船町恐竜博物館 池上 直樹 博士、ブラジルサンパウロ大学動物学博物館 ベガス ロドリゴ 博士、熊本大学研究開 発戦略本部 技術専門員 吉永 徹 氏、元 熊本大学技術部 技術専門職員 佐藤 宇紘 博 士、熊本大学大学院先端科学研究部 教授 椋木 俊文 博士、熊本大学 理事・副学長 大 谷 順 博士、北海道大学総合博物館 教授 小林 快次 博士の研究チームは、御船層群産 の翼竜化石標本を再検討し、CT スキャナーで得られたデータ等に基づいて、その系統 学的位置づけを検証しました。その結果、この標本は日本産の翼竜としては、初めて新 種として命名されるべきものであることがわかりました。また、この新種の翼竜はモン ゴルのチュロニアン期〜コニアシアン期の地層から産出している未命名のアズダルコ 科の翼竜と最も近縁であり、後期白亜紀後半に北米に生息していた大型翼竜ケツァルコ アトルスと同じ系統に属する結果が示されました。
背景とこれまでの経緯
アズダルコ科の翼竜は、最大の翼竜ケツァルコアトルスを含む翼竜です。後期白亜紀 に出現し、アジア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカなど、世界中に分布を広げ、白 亜紀末には大型の種が出現しました。
翼竜の骨格は細く華奢なつくりをしているため、化石記録は多くなく、国内では、北 海道、岩手県、富山県、石川県、岐阜県、兵庫県、長崎県、熊本県、鹿児島県から断片 的な化石が知られているのみで、これまで国内で産出した化石に基づいて命名された翼 竜はありませんでした。
御船層群では、1993 年に御船町天君ダム上流の河床の転石から翼竜の指骨が発見さ れ、1996 年に御船町教育委員会が熊本県の補助を受けて実施した「熊本県重要化石分 布確認調査」において、御船町天君ダム上流の太田川の河床の骨化石層から頸椎骨が発 見されました。それ以降、恐竜やその他の陸棲脊椎動物化石にともなって、翼竜化石が 発見されるようになり、この頸椎骨化石の他にも、前肢の手の甲や指の骨が数点見つか っていました。
Okazaki (1996)は、国内初の翼竜化石として翼指竜類*4の指骨を報告し、Ikegami et al. (2000)は、頸椎骨化石をアズダルコ科属種不明として報告を行いましたが、当時は、 世界的に化石記録に乏しく、系統関係を明らかにすることはできませんでした。
研究成果
(1) 第6頸椎骨と判明 Ikegami et al. (2000)では、頸部の中間に位置する頸椎骨と考えられ、その後、 Averianov (2014)や Andres & Langston (2021)では、特に根拠を示すことなく 第 4 又は第 5 頸椎骨と解釈されていました。 しかし、本研究ではケツァルコアトルスやウェルンホプテルスの第 6 頸椎骨 に見られるように、側方の収縮が少なく、後関節突起*5間の椎弓板*6が正弦波状 になっており、背面に膨らんでいる椎体*7後部や、かなり大きい後外関節突起*8 をもつという組み合わせが見られることから、第 6 頸椎骨と判断できました。
(2) アズダルコ科の新属新種のものであることを解明 本研究において第 6 頸椎骨には次の 4 つの固有の特徴があることが判明しま した。 ・後関節突起に独特な背側稜が発達する ・椎体の底部には前後方向に溝が発達する ・椎体後部の関節面は三角形を呈する ・後外関節突起は椎体の側方に伸びる これらの固有の特徴とその組み合わせから新属新種であることが判明し、 Nipponopterus mifunensis (ニッポノプテルス・ミフネンシス)と命名しました。 これは、体化石としては日本で初めて命名された翼竜となります。
(3) アズダルコ科として最古級の化石であり、白亜紀末のケツァルコアトルス等の 大型翼竜と近縁であることが示された 他の翼竜との系統関係を調べるために、204 種の翼竜について 533 個の特徴 を比較しました。その結果、ニッポノプテルスは、モンゴルで見つかっているア ズダルコ科の翼竜と最も近縁であることがわかり、さらに、後期白亜紀に大型化 する種が出現するケツァルコアトルス亜科に属することがわかりました。この なかまの翼竜としては、時代的に最も古いもののひとつです。
今後の課題と展望
国内の翼竜化石の産出記録は依然として少なく、また、断片的なものに限定されるた め、更なる化石の探索と収集が必要です。御船層群は、翼竜化石が複数産出している国 内では希有な地層であり、更なる化石の発見が期待されます。
学名の由来
Nipponopterus mifunensis ニッポノプテルス ミフネンシス 意味:御船産の日本の翼 7 論文題名 Reassessment of an azhdarchid pterosaur specimen from the Mifune Group, Upper Cretaceous of Japan 日本の上部白亜系御船層群から産出したアズダルコ科翼竜標本の再検討
執筆者
中国 石河子大学 准教授 周 炫宇 博士
御船町恐竜博物館 主任学芸員 池上 直樹 博士
ブラジル サンパウロ大学動物学博物館 博士研究員 ベガス ロドリゴ 博士
熊本大学研究開発戦略本部 技術専門員 吉永 徹 氏
元 熊本大学技術部 技術専門職員 佐藤 宇紘 博士
熊本大学大学院先端科学研究部 教授 椋木 俊文 博士
熊本大学 理事・副学長 大谷 順 博士
北海道大学総合博物館 教授 小林 快次 博士
掲載誌
英文科学雑誌「Cretaceous Research(クリテイシャス・リサーチ)」Vol. 167
DOI 番号:10.1016/j.cretres.2024.106046
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667124002192
展示公開
御船町恐竜博物館常設展示室にて公開
翼竜の化石について意見の照会ができる方
国立科学博物館 研究主幹兼コレクションマネージャー 對比地孝亘 博士
福井県立恐竜博物館 探究・体験課長 宮田和周 博士
Journal
Cretaceous Research
Method of Research
Imaging analysis
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Reassessment of an azhdarchid pterosaur specimen from the Mifune Group, Upper Cretaceous of Japan
Article Publication Date
31-Mar-2025
COI Statement
Rodrigo Vargas Pêgas reports financial support from the Fundação de Amparo à Pesquisa do Estado de São Paulo. The other authors declare no known competing financial interests or personal relationships that could have influenced the work reported in this study.