News Release

白血病ウイルスが“ひっそりと感染する“仕組みを解明

白血病ウイルスHTLV-1の潜伏機構と新規サイレンサー領域の発見

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

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HTLV-1 uses a silencer region and the RUNX protein complex to suppress its gene activity and stay hidden in the body. In contrast, HIV-1 lacks this mechanism, leading to active virus production and cell death. This highlights a fundamental difference in how the two viruses survive and spread.

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Credit: Yorifumi Satou, Kumamoto University

 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、ヒト免疫系の中核を担うCD4陽性T細胞に感染するレトロウイルスの一種です。本ウイルスは、感染細胞のゲノムDNAに自身の遺伝情報を組み込むという特徴を有しており、こうして宿主ゲノム内に組み込まれたウイルス遺伝子は「プロウイルス」と呼ばれます。このプロウイルス状態により、HTLV-1は宿主内に長期間潜伏し、持続感染を成立させることが可能となります。HTLV-1感染者の大多数は無症候のまま生涯を終えますが、約2~5%の感染者においては、数十年にわたる潜伏期を経て、成人T細胞白血病(ATL)と呼ばれる予後不良な血液悪性腫瘍を発症することが知られています。日本は世界有数のHTLV-1感染集積地域であり、現在も多くの感染者がATL発症リスクを抱えながら日常生活を営んでいます。このような現状を踏まえ、ATLの発症メカニズムの解明および新規治療法の開発に向けた研究を国内において強力に推進することが、喫緊かつ重要な課題となっています。

 感染の初期段階において、HTLV-1はウイルスタンパクを活発に発現させ、新規感染を拡大させていきます。しかし、これらの感染細胞は、体内の免疫システム、特にCD8陽性T細胞によって速やかに認識・排除されてしまいます。そのため、潜伏感染時に体内に長期間残るのは、ウイルス遺伝子の発現を抑えた一部の感染細胞に限られます。この段階では、HTLV-1は必要最低限の遺伝子のみを発現させることで、免疫からの監視を回避しています。ウイルスが潜伏状態にある間も、感染したT細胞が分裂することで、ウイルスも細胞のゲノムに組み込まれた形で複製され、増えていくことが可能です。本研究では、HTLV-1が潜伏感染状態を保つために重要な働きをする「サイレンサー領域」をプロウイルスゲノム内に発見しました。

  研究チームは、九州の医療機関と協力し、HTLV-1に実際に感染している患者さんの血液サンプルを用いて、感染細胞内でのプロウイルスの状態を「ATAC-Seq(アタックシーク)解析」という手法で詳しく調べました。その結果、ウイルスゲノムの中に、「クロマチンが開いた領域」が存在することを突き止めました。さらにその領域の機能を調べたところ、同領域がウイルス遺伝子の転写を抑える機能を持つサイレンサー領域であることが確認されました 。同サイレンサー領域にはRUNX(ランクス)(Runt-related transcription factor) を中心に様々な転写因子が複合体を形成することで、ウイルス遺伝子のスイッチを調節していることも分かりました。
 次に、同領域に変異を加えたウイルスを人為的に作成し、細胞に感染させる実験を行いました。その結果、変異HTLV-1はオリジナルウイルスに比べてウイルス粒子の産生性が増加しており、潜伏感染状態が阻止されたことが分かりました。

 HTLV-1と同じレトロウイルスであり、ヒトに対して後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因となるHIV-1は、感染CD4T陽性細胞でウイルス産生が盛んに行われ、感染細胞に細胞死を誘導した結果、エイズを引き起こすことで知られます。HIV-1のプロウイルスには今回発見されたサイレンサーに相当する領域がなかったことから、2つのレトロウイルスの感染様式を決定する重要な役割を持つことが考えられました。そのことを証明するために、サイレンサー領域を導入した組換えHIV-1を作成し、感染実験を行ったところ、ウイルスの増殖性が低下し細胞死誘導が顕著に阻害されたことから、HIV-1が潜伏感染するウイルスに変化したことが示唆されました。

本研究では、次世代シークエンサーやシングルセル解析といった先端的研究手法に加え、免疫学的解析手法を駆使して、実際の患者検体を高精度に解析する多分野融合型の研究アプローチを実施しました。その結果、ウイルス発見から40年以上にわたり不明であったHTLV-1の潜伏感染メカニズム解明に迫るを重要な知見を得ました。

また、今回明らかにしたメカニズムは、ヒトレトロウイルスであるHTLV-1とHIV-1が、それぞれ潜伏感染および増殖感染という異なる感染経過をたどる主な要因であると考えられます。本知見は、ウイルスの進化過程および生存戦略を理解する上でも重要な新たな知見となります。

  HTLV-1が長期間にわたって体内に潜伏できる仕組みを分子レベルで明らかにした本研究は、HTLV-1感染者における病気の進行や再発の仕組み解明に大きく貢献するものです。また、サイレンサーの機能を標的とすることで、これまで難しかったHTLV-1の治療開発へ向かう新たな道が開かれました。


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