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数学的証明が「組み合わせ」の効果に新たな視点をもたらす

物理学から経済学まで、幅広い分野で応用されるBorell-Brascamp-Liebの不等式(BBL)の理解がさらに深まりました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Borell-Brascamp-Liebの不等式

image: 暗い背景に白い文字で数式が重なっている様子。 view more 

Credit: Erika Fukuhara/OIST, using equations from Ishige et al., Math. Ann., 2025.

異なる物が組み合わさると、何が起こるのか――この問いこそが、数学、科学、そしてそれ以外の多くの分野でも用いられる Borell-Brascamp-Liebの不等式の核心です。今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、東京大学、フィレンツェ大学の研究チームは、この強力な不等式に対する新たな証明を与えました。その手法は、熱方程式や拡散方程式に着目した、従来とは異なるアプローチに基づいています。

関係性を数学的に定義する

「数学者は長年にわたり、不等式を使ってさまざまな関係性を記述してきました」と語るのは、OIST幾何学的偏微分方程式ユニットを率い、本研究論文の著者の一人である柳青准教授です。「Borell-Brascamp-Liebの不等式は、物質を混合わせたときに形状や密度がどのように変化するかなど、物質が混ざり合い、結合する方法を記述する際に特に有用です。これまで、不等式が物質や情報の拡散の様子を記述するために使われることはよく知られています。今回の研究では、私たちはその逆の状況に目を向けてみました。拡散方程式を用いることで、不等式に対するより深い理解が得られるのか、という問いを立てたのです。」

柳准教授と共同研究者である東京大学の石毛和弘教授、フィレンツェ大学のPaolo Salani教授は、証明の基盤として、非線形偏微分方程式を用いました。偏微分方程式は、空間と時間における変化を記述する数学的な手法で、今回の研究では、物質が多孔質材料を通じてどのように拡散するかの仕組みと関連しています。研究チームは、このような方程式の幾何学的側面をおよそ10年間にわたって徹底的に研究してきました。今回のプロジェクトでは、偏微分方程式の応用範囲を広げ、数学のさまざまな分野における重要な問題に取り組むことを目指しました。

Borell-Brascamp-Liebの不等式の重要性

多くの数学の概念は、幅広い応用があり、長い歴史があります。Borell-Brascamp-Liebの不等式もまさにそのような概念の一つです。この不等式は、よく知られているBrunn-Minkowskiの不等式(形状を組み合わせたときの体積変化を表す不等式)と、その関数版である Prékopa–Leindlerの不等式を一般化した不等式です。ブルン・ミンコフスキー不等式は、その応用範囲の広さから、「タコのように触手を広げ、ある領域から別の領域へと移動しながら、その色や形を変える」とも形容されています(Gardner, 2002)。「例えば、コンピューターサイエンスや医用画像処理の分野では、ある形状が別の形状へと滑らかに変化する映像を作りたいというような状況があります。例えば、円が四角に変わるような場合、中間の形状が不自然な歪みなく、自然に拡大・縮小しながら変化する必要があります」と柳准教授は説明します。「この原理を応用することで、グラフィックデザイナーや科学者は、リアルで滑らかな形状変化を設計できます。特に医用画像処理では、医師が臓器の形状変化を時間の経過とともに追跡する際に役立ちます。」

Borell-Brascamp-Liebの不等式は、ブルン・ミンコフスキー不等式のアイデアを拡張し、形状だけでなく、異なる種類の「重み」や「強度」がどのように組み合わさるかをも記述します。そのため、経済学における資源分配、コンピューターサイエンスにおけるデータ処理、情報理論におけるエントロピーやデータ圧縮、統計学における不確実性のモデリングなど、より多様で複雑な問題に応用可能です。これらの不等式は、凸幾何学と関数解析の分野の基盤ともなっています。

しかし、Borell-Brascamp-Liebなどの不等式をさまざまな状況で安心して活用するためには、数学的な証明が不可欠です。なぜなら、証明によって、それらの概念が特定の条件下でも有効であることが確認されるからです。従来、 Borell-Brascamp-Liebの不等式は凸解析や最適輸送理論を用いて証明されてきましたが、本研究で採用した非線形偏微分方程式によるアプローチは、その方程式に対して異なる視点から新たな洞察をもたらしました。新たな手法を用いることで、従来は捉えられなかった特徴が浮かび上がり、構造の透明性と汎用性が高まります。

偏微分方程式の可能性を広げる

研究チームは、今回の論文を、この分野の新たな出発点と位置づけています。今後は異なるさまざまな偏微分方程式を応用し、方程式の観点から多様な不等式の証明に挑戦していく予定です。現在は、方向と距離が明確に定義されているユークリッド空間に焦点を当てていますが、今後は、一般的に方向構造が存在しない距離空間など、他の数学的領域にも対象を広げていく予定です。

「長年に渡る未解決問題を解決するには、創造的なアプローチを取ることが重要です」と柳准教授は語ります。「今回の研究では、ある数学分野の概念を別の分野に応用することで新たな洞察を得ることができました。この研究が、数学や関連分野において、今後の学際的アプローチの道しるべとなることを願っています。」


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