image: OIST Associate Professor Paola Laurino
Credit: OIST
沖縄科学技術大学院大学(OIST)のパオラ・ラウリーノ准教授が、ドイツのFalling Walls Foundationが主催する「Falling Walls Science Breakthrough」の生命科学部門において、世界のトップ10名の研究者の一人に選ばれました。
Falling Walls Foundationは、科学と社会をつなぐことを目的に、毎年世界中から革新的な研究成果を選出しています。生命科学、物理学、工学・技術など9つのカテゴリーにおいて、社会課題の解決につながる可能性を持つ科学的ブレークスルーを表彰しています。
今年、生命科学分野のトップ10のひとつとして選ばれたのが、2017年からOISTタンパク質工学・進化ユニットを率いるパオラ・ラウリーノ准教授による研究プロジェクト「海洋微生物の生存戦略」です(対象論文:https://www.nature.com/articles/s41586-024-07924-w Nature, 2024)。この研究では、地球上で最も多く存在する海洋細菌「SAR11」が、栄養の乏しい環境下で生き延びるために、超高親和性の輸送体を用いて炭素源を効率的に取り込んでいることを分子レベルで解明しました。さらに、SAR11が利用する栄養素の地球規模での取り込みパターンも明らかにしています。
ラウリーノ准教授は、「私たちの実験により、SAR11細菌が栄養の乏しい環境で生き延びるために使っている輸送タンパク質の特異な性質が明らかになりました。これは、ゲノムデータだけでは見えてこなかった知見です。SAR11が炭素や硫黄の交換など、地球規模の栄養循環に中心的な役割を果たしていることはすでに知られていましたが、輸送タンパク質を網羅的にマッピングすることで、この微生物がこれらの重要なプロセスにどのように関与し、影響を与えているのかが、より明確に理解できるようになりました」と語っています。
この成果は、微生物が地球規模の生物地球化学サイクルをどのように形成しているかを理解するうえで重要な手がかりとなり、環境モデリングや修復戦略、栄養素捕捉システムの設計に新たな視点を提供します。また、システム生物学や合成生物学の新たなフロンティアを切り開き、気候変動、生態系管理、分子技術革新に長期的な影響を与える可能性を秘めています。
2023年の物理学部門でのケシャヴ・ダニ准教授の選出に続き、OISTの研究者による2回目のFalling Walls Science Breakthrough における快挙となります。
Falling Walls Foundationは、各カテゴリーのトップ10名の中から「2025年 サイエンス・ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」を9月16日に発表予定です。最終選出者は、11月9日にベルリンで開催されるFalling Wallsサイエンス・サミットにてプレゼンテーションを行います。