News Release

粘土鉱物から生まれた!中低温領域で機能するプロトン伝導性ナノシート積層型固体電解質

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

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This innovative flexible membrane, derived from natural clay minerals, is fabricated using monolayer silicate nanosheets. It exhibits outstanding proton conductivity and superior hydrogen gas barrier properties, positioning it as a transformative advancement for fuel cell technology.

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Credit: Shintaro Ida, Kumamoto University

(研究背景)
 燃料電池は、二酸化炭素の排出なしに、水素と酸素から高効率に電気エネ ルギーを作ることができる、次世代の電源として期待されています。固体電 解質の種類により、固体高分子形燃料電池(PEFC)、固体酸化物形燃料電池 (SOFC)などに分類され、それぞれの長所に応じて研究が進展してきました。 両 者と も 車 載 用の 燃 料電 池 と し ての 研 究開 発 が 長 年実 施 され て い ま すが 、 SOFC搭載車両の場合はさらなる動作温度の低温化、PEFC搭載車両では動作 温度の高温化が次世代の車載用燃料電池として求められています。例えば、 Nafionに代表されるパーフルオロカーボン材料を主に使用するPEFC搭載 車両では105 ℃での安定動作が「NEDO燃料電池・水素技術開発ロードマップ ―FCV・HDV用燃料電池ロードマップ(解説書)-2025年2月」で次世代燃料 電池の2030年頃の開発目標として設定されています。一方で高分子固体電解 質は、2030年以降の定常動作温度の目標と想定される120~150 ℃といった中 温動作時の水素クロスオーバーが、同程度の膜厚のセラミックス電解質と比 べて大きいことや、プロトン伝導性の低下など高分子材料の構造に由来する 根本的な課題もあります。高分子固体電解と同程度の温度領域で機能する無 機固体電解質が開発できれば、高分子固体電解質の課題を解決でき、さらに これまでに開発してきたPEFC搭載車両の燃料電池システムの多くがそのま ま適用できる可能性もあるため、燃料電池搭載車両の性能向上がいち早く達 成できるかもしれません。

(具体的な成果)
 天然の粘土鉱物であるモンモリロナイトから単層のナノシートのみを抽 出し、精密に積層させることで無機ナノシートの積層膜を作製しました。作 製した膜は、機械的強度を補強するためのバインダーなどは一切使用してお らず、シリコン、アルミニウム、マグネシウムを主成分とする100%無機物質 から成る膜となります。無機ナノシート積層膜は高い柔 軟性を持つことがわかります。単層のナノシートのみを積み重ねて膜化する ことで、無機材料であるにもかかわらず柔軟性を持つ膜の作製に成功しまし た。高い成形性も持ち合わせており、滴下乾燥、吸引ろ過、スピンコートな どの手法により、膜厚や形状、面積を制御した膜を容易に作製することがで きます。原料となるモンモリロナイトなどの粘土鉱床は世界各地に存在し、 日本国内にもみることができるため、原材料費用を安く抑えることができる 可能性もあります。開発した無機ナノシート積層膜は、-20~140 ℃の広い温度 範囲でプロトン伝導性を示し、140 ℃(相対湿度100%)で8.7×10-3 S/cmのプ ロトン伝導性を示しました。同時に、Nafionの100倍以上優れた水 素ガスバリア特性を示し、水素および酸素の暴露下で2週間以上安 定であることも確認しました。これらの結果は、無機ナノシート積層膜が、 固体電解質膜として要求されるプロトン伝導性、水素ガスバリア性、化学的 安定性を両立していることを示しています。実際に、無機ナノシート積層膜 を固体電解質として使用した燃料電池の性能評価を行いました。結果として、 90 ℃(相対湿度100%)で264 mW/cm2の出力密度を得ることができました。これは、無機ナノシート積層膜の柔軟性と高いガスバリア特性、化学的 安定性により、2.5 nmという薄さでも、電極の短絡および水素リークなしで 燃料電池に組み込めたためです。さらにこの燃料電池は、-10~140 ℃と広い 温度範囲で作動することも確認しました。氷点下以下や100 ℃以上の 中温領域の燃料電池動作は電解質の性能のみではなく、電極や動作条件も重 要な制御因子であるため、現時点はその出力は不十分ですが、膜構造の更な る改善により出力向上を見込めると期待して継続研究を進めています。

(今後の展開)
 今回開発 した固体電解質は優れた特性 を持つことに加え、天然粘土鉱物由来の 材料であり、低環境負荷かつ経済的にもすぐれた材料 となりえます。そのため、開発 した膜 を用いた燃料電池開発 を進めていくことで、持続可能な人類の発展に大 きく 貢献できます。


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