image: 図1 細胞内送達から単一細胞解析までの流れ。上段:2D細胞圧縮技術により一過性のナノ孔を形成し、分子が細胞内へ入る。処理後に細胞を回収して明視野・蛍光で撮像。下段:画像サイトメトリーで(i)明視野、(ii)緑色蛍光(カーゴ)、(iii)赤色蛍光(生存染色)を統合し、(iv)セグメンテーションとルール判定で送達・生死を自動分類。 view more
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〈概要〉
豊橋技術科学大学とインド工科大学マドラス校の共同研究チームは、直径8–15 µm(8 µm時に最大約62,000孔)、深さ約20 µmの垂直スルーホールを持つマイクロ流体デバイスを開発しました。最大毎分300万個の細胞処理能力(細胞濃度2×10⁶ cells/mL、流量1.5 mL/min条件下)を実現し、深層学習(Mask R‑CNN)による自動画像解析と組み合わせることで、細胞内送達と評価を同時に高速化するプラットフォームを実現しています。多様な細胞に分子を素早く細胞内まで届け、その結果を数千単位の細胞で即座に数値化できます。
〈背景〉
創薬や診断、細胞工学の現場では、膨大な数の細胞に対して分子を届け、その反応を同時に評価する「ハイスループット」な実験が不可欠です。ところが、従来のチップは処理速度や対応できる細胞・分子の幅に限界があり、結果の判定にも高価で複雑な装置や人の目が必要でした。本研究は、「速く届ける」と「速く確かめる」をひとつの流れにまとめ、ボトルネックを同時に解消しました。
〈技術のポイント〉
デバイス底面の多孔膜(SU‑8)には、細胞より細い垂直スルーホールが多数並びます。細胞がここを通過する一瞬だけ、穏やかに圧縮され、膜に一過性のナノ孔が開き、分子が細胞内へ入ります。孔は自然に閉じ、細胞は回復します。実験後は、顕微鏡画像(明視野・蛍光)を撮影して、オフラインで深層学習(Mask R‑CNN)ベースのイメージサイトメトリが解析し、送達効率、生存率、細胞サイズ、細胞あたりの送達量までを自動算出します。手作業なら数時間かかる処理が、約500細胞の代表的データセットでは約83秒で完了します。人力での評価と同等の精度を維持しています。
〈実証結果〉
本プラットフォームは、HeLa細胞やJurkat細胞への4–40 kDaのFITC-デキストラン導入に加え、ヒト歯肉線維芽細胞(hGFs)やヒト間葉系幹細胞(hMSCs)など複数の細胞で、蛍光標識siRNA(6‑FAM siRNA)やEGFPプラスミドDNAの細胞内送達を確認しました。1,980細胞(siRNA)や1,184細胞(プラスミド)といったサンプル数での解析により、統計的に信頼できる結果を短時間で得られます。AIの判定精度は人での評価と同程度で、解析時間は大幅に短縮されました。
〈研究者の声〉
「我々の目標はシンプルでした。たくさんの細胞の中へ、分子を“速く、穏やかに”届けることです。複数の細胞種で確かめ、個別化医療や細胞工学への可能性が広がりました」(筆頭著者 インド工科大学マドラス校 博士課程 Pulasta Chakrabarty)
「研究現場で普段撮っている画像を、そのままAIに渡すだけで解析できます。輝度に基づいて、送達効率、生存率、細胞サイズ、細胞あたりの量まで一度に数えます。細胞実験が進むスピードに、評価の方が追いつきます」(共著者 豊橋技術科学大学 機械工学専攻博士前期課程 鈴木涼真)
「ハイスループットでの物質送達と自動での品質管理を一体化して、概念実証から実務的なワークフローに橋渡しを行いました。将来的には患者さんの細胞を現場で処理し、条件探索を迅速化できるシステムへの応用を目指しています」(豊橋技術科学大学 次世代半導体・センサ科学研究所 永井萌土 教授)
〈意義と展望〉
- 1回通過の高スループットでの細胞処理を短時間に連続実行し、同一の撮像・AI解析パイプラインで多条件・多細胞種・多様な分子を横断比較が可能です。実験設計の自由度が広がります。
- 解析の自動化により、撮像直後に指標を可視化でき、その日のうちに条件決定が可能です。スクリーニングや診断、実用的な細胞改変、将来的なポイントオブケア型の遺伝子編集キットにつながる可能性があります。
- 今後は、より臨床に近い初代培養細胞や、タンパク質・ナノ粒子など多様な分子への適用拡張、並びに装置とAIの普及を目指します。
図キャプション(日本語)
図1 細胞内送達から単一細胞解析までの流れ。上段:2D細胞圧縮技術により一過性のナノ孔を形成し、分子が細胞内へ入る。処理後に細胞を回収して明視野・蛍光で撮像。下段:画像サイトメトリーで(i)明視野、(ii)緑色蛍光(カーゴ)、(iii)赤色蛍光(生存染色)を統合し、(iv)セグメンテーションとルール判定で送達・生死を自動分類。
図2 ヒト歯肉線維芽細胞(hGFs)での実証。(a) 6‑FAM siRNA、(b) EGFPプラスミド。各条件について、(i)明視野、(ii)緑色蛍光、(iii)Calcein red‑orange、(iv)画像サイトメトリー出力。スケールバー:20µm。(c) 送達効率と生存率(平均±SD)。(d) 単一細胞散布図:横軸=緑色蛍光強度(a.u.;送達/発現量の指標)、縦軸=Calcein Red‑Orange蛍光強度(a.u.;生存性指標)。右上ほど「高効率送達(発現)かつ高生存率」。6‑FAM siRNA(N=1,980)、EGFPプラスミド(N=1,184)。
〈書誌情報〉
“High Throughput Intracellular Delivery Using a 2D Cell-Squeezing Mechanoporation Device and Its Analysis by a Deep Learning Model”
Pulasta Chakrabarty, Abinaya R, Ryoma Suzuki, Srikanth Vedantam, Suresh Rao, Moeto Nagai, Tuhin Subhra SantraAdvanced Healthcare Materialse02472First published: 21 August 2025
https://doi.org/10.1002/adhm.202502472
Journal
Advanced Healthcare Materials
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable