花が鮮やかな色や甘い香りで送粉者を惹きつけるはるか昔、古代の植物は別の特徴を使って虫にシグナルを送っていた。熱である。現代のソテツ植物とその送粉者である希少な甲虫種に関する生物学とそれらの関係の分析に基づいたこの研究結果から、植物と動物の最古の共進化期を形成したのは何かについて新たな知見が得られた。植物は送粉者を惹きつけるために、色と香りのみならず、熱生成も含め、多数の優れた戦略を進化させてきた。発熱植物は激しい細胞呼吸によって熱を生成する。この熱は赤外線として放射され、送粉昆虫への直接的なシグナルとして機能する場合もあると考えられている。しかし、植物の熱生成の生態学的及び機能的役割は依然として推測の域を出ない。ソテツは、動物媒受粉を行う種子植物の最古の系統で、全ての発熱種の半数以上を占め、特殊な甲虫送粉者に依存している。化石エビデンスでソテツと甲虫の相互関係は少なくとも2億年前に遡ることが示されていることから、その関係は熱赤外線放射の生成が送粉者への感覚刺激として機能するかどうかの調査や植物と送粉者の初期の共進化の研究に理想的となっている。
Wendy Valencia-Montoyaらは、アメリカ大陸全域での現地観察と分子生物学、電気生理学、蛋白質構造研究、制御された行動実験を組み合わせた一連の方法を用いて、ソテツの熱生成とそれが甲虫送粉者とどう関係しているかを解明した。Valencia-Montoyaらは、ミトコンドリアの適応と時計遺伝子によって植物の生殖器官で律動的な熱生成が起こること、それゆえにソテツは生成した熱を毎日午後から単発で放出し、放出は夕方にピークを迎えることを発見した。甲虫送粉者を引き寄せるには、この赤外線放射だけで十分である。彼らはまた、甲虫送粉者が触角に特殊な赤外線感知器官を持っていること、そこには極めて感熱性の高い受容器があり、種ごとに異なるその構造は送粉相手の植物特有の熱出力に合致していることも明らかにした。これは植物の熱生成と甲虫の感覚器の共進化を示唆している。進化的比較ではまた、赤外線シグナル伝達は色ベースの送粉刺激が普及する前からあったことも示された。関係するPerspectiveではBeverly GloverとAlex Webbが、「赤外線が最も簡単に検知できるのは夜間であるため、ソテツへの送粉は夜間に飛ぶ甲虫によるものにほぼ限られる」と書いている。「おそらく夜行性昆虫群が持つ単一の受容器でしか検知できないシグナルを進化させたことで、虫媒のソテツは自らの種形成の機会を制限することになった。月明かりの下でのソテツと昆虫のやり取りが、ソテツを限定的な進化的放散へと運命づけたのかもしれない。」
Journal
Science
Article Title
Infrared radiation is an ancient pollination signal
Article Publication Date
11-Dec-2025