image: Both ABA and RW groups demonstrate elevated preference for novel social over other novel stimuli. Empty symbols represent SAL-treated mice; filled symbols represent psilocybin-treated mice. Data are presented as mean ± SEM and were analyzed by one-way ANOVA with Šidák post hoc tests. Significance thresholds: ∗P < 0.05; ∗∗P <0.01; ∗∗∗ P < 0.001. For futher details see Figure 3 legend in the paper.
Credit: Claire J Foldi
オーストラリア・ビクトリア州クレイトン、2026年2月3日 —
神経性食欲不振症(拒食症)に対するサイケデリック治療の可能性が注目される一方で、その効果には大きな個人差があり、作用機序も十分には解明されていない。こうした中、モナシュ大学のClaire Foldi准教授率いる研究チームは、精神活性化合物シロシビンが雌マウスの社会行動と炎症反応に及ぼす影響が、代謝状態と運動の文脈に大きく依存することを示した。
本研究は学術誌『Psychedelics』(Genomic Press)に掲載され、拒食症の中核的特徴を再現する前臨床モデルである活動性食欲不振症(activity-based anorexia, ABA)に曝露された雌マウスを用いて、シロシビンの社会性への影響を体系的に検討した初の研究である。
臨床的背景:なぜ「文脈」が重要なのか
神経性食欲不振症は精神疾患の中でも死亡率が高く、若年女性に多い疾患として知られる。近年、シロシビンを含むサイケデリクスが治療候補として試験されているが、初期臨床研究では症状改善が見られたのは参加者の約40%にとどまった。
なぜ反応する人としない人がいるのか。代謝ストレスや運動歴といった背景要因が治療効果を左右している可能性がある。本研究は、こうした臨床上の疑問に前臨床モデルから迫る試みである。
研究の方法:雌マウスに焦点を当てた体系的比較
従来のサイケデリック前臨床研究の多くは雄を用いてきた。しかし拒食症は女性の罹患率が圧倒的に高い。Foldi准教授らは雌マウスを中心に据え、運動と食物制限の寄与を分離できる実験設計を採用した。
研究では8週齢の雌C57Bl/6マウス(n=56)を以下の4群に割り付けた。
- 活動性食欲不振症(ABA)群(食物制限+回転輪)
- 食物制限単独群
- 自由摂食+回転輪群
- 標準対照群
体重がベースラインの75〜85%に達した段階でシロシビン(1.5 mg/kg)を投与し、投与4〜5時間後に三箱式社会性試験を実施した。さらに投与7時間後に採血し、炎症性サイトカインIL-6を測定した。
予想外の行動結果:ABA群で社会的新奇探索が亢進
研究チームが注目したのは、拒食症モデルにおける社会的欠損である。しかし結果は予想と異なっていた。
ABAマウスは社会的回避を示さず、むしろ見知らぬ個体への新奇探索行動が有意に増強していた(P=0.0209)。一方、食物制限単独群では同様の亢進は認められなかった。
運動のみの群でも社会的新奇性選好が見られたが、その出現パターンはABA群とは異なり、運動と代謝ストレスの組み合わせが独自の行動文脈を形成している可能性が示唆された。
炎症反応:IL-6は特定条件下でのみ上昇
免疫学的結果もまた「文脈依存的」であった。
ベースラインのIL-6値には群間差がなかったが、シロシビン投与後、自由摂食+回転輪群でのみIL-6が有意に上昇した(P=0.0029)。さらにIL-6の上昇は社会的新奇性選好と強く相関していた(r=0.8020, P=0.0166)。
しかしABA群や食物制限群ではこの関連が消失しており、食物制限が運動文脈下の免疫—行動結合を遮断する可能性が示された。
研究者らは、運動が報酬系や免疫状態を変化させ、シロシビンの効果が現れる「代謝的・免疫的背景」を形成している可能性を指摘している。
治療開発への示唆:個別化の必要性
本研究は、サイケデリック治療を摂食障害に応用する際の複雑さを浮き彫りにする。
代謝状態、運動歴、炎症プロファイルといった背景因子が治療反応を規定する可能性があり、将来的にはバイオマーカーとして活用される余地がある。また、ヒト研究で報告される抗炎症効果は投与後数日単位で現れることも示されており、時間動態を含むさらなる検討が必要である。
Foldi准教授らは、長期モデルや複数時点での免疫測定、脳領域特異的な神経可塑性指標との統合解析が次のステップになると述べている。
本査読済み原著論文
「Psilocybin exerts differential effects on social behavior and inflammation in mice in contexts of activity-based anorexia」
は2026年2月3日よりオープンアクセスで公開されている。
全文: https://doi.org/10.61373/pp026a.0003
Psychedelics誌について
『Psychedelics: The Journal of Psychedelic and Psychoactive Drug Research』
(ISSN: 2997-2671[オンライン]、2997-268X[印刷])はGenomic Pressが発行する国際査読誌であり、古典的サイケデリクスから関連する精神作用性化合物まで、意識変容物質研究の全領域を対象とする。
分子メカニズム、神経科学、臨床応用、心理学的研究、社会文化的分析を含む学際的成果を歓迎し、治療開発と科学的理解の進展に貢献することを使命としている。
Genomic Press Virtual Library: https://issues.genomicpress.com/bookcase/gtvov/
公式サイト: https://genomicpress.com/
Journal
Psychedelics
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Animals
Article Title
Psilocybin exerts differential effects on social behavior and inflammation in mice in contexts of activity-based anorexia
Article Publication Date
3-Feb-2026
COI Statement
Author disclosures: The authors declare no potential conflicts of interest with respect to the research, authorship, and/or publication of this article.