image: Figure: (Left) Experimental setup. ① Direct viewing of a face presented in front, and ② direct viewing of a face presented behind the observer. Using tools, ③ indirect viewing of a front stimulus through a framed glass panel, and ④ indirect viewing of a behind stimulus via a hand mirror. (Right) Expression judgment bias (example from the angry condition in Experiment 2).
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<概要>
豊橋技術科学大学情報・知能工学系認知神経工学研究室と視覚認知情報学研究室の共同研究チーム(代表者:田村秀希助教)は、観察者の背後に位置する顔の表情がどのように知覚されるのかを心理物理学的に調査しました。ヘッドマウントディスプレイを装着した参加者が、VR空間内で正面または背後に呈示される顔の3Dモデルを観察し、その表情を二択で判断する実験を行いました。刺激の表情は無表情から怒り顔まで連続的に変化し、参加者はその顔が無表情か怒り顔かを判断しました。怒り顔に加えて、幸せ顔や恐怖顔も含めた4つの実験の結果、観察者の背後にある顔は、前方にある場合と比べて表情がより強く知覚される傾向(背後の表情増強バイアス)が一貫して示されました。特に怒り顔では、後ろに振り向かず、仮想的な手鏡越しに背後の顔を観察した場合でも同様の傾向が確認されました。これらの結果は、身体を回転させる行為そのものではなく、顔が観察者の背後に位置することが、私たちの表情認知に影響を与えうる重要な要因である可能性を示唆します。本研究は、観察者の背後に存在する情動的に顕著な刺激(例:脅威)の処理に関連する空間的な知覚バイアスの存在を示唆するものです。本研究の成果は、2026年3月30日付でCognition誌にオンライン掲載されました。https://doi.org/10.1016/j.cognition.2026.106532
<詳細>
私たちは他者の表情を読み取ることで、その人の感情や意図を理解し、適切な行動を選択しています。他者の表情認知の仕組みはこれまで多くの研究で調査されてきましたが、その多くは観察者の正面に呈示された顔を対象としていました。しかし実際の日常環境では、顔は前方だけでなく背後や側方にも存在します。このような「自己中心座標における位置」が表情認知に与える影響は、これまで十分に明らかにされていませんでした。
本研究では、仮想現実(VR)環境を用いて、顔が観察者の前方または背後に呈示される状況を再現し、表情の強さの知覚を定量的に測定しました。参加者はヘッドマウントディスプレイを装着し、正面または背後に呈示される顔の3Dモデルを観察しました。正面条件ではそのまま刺激を観察し、背後条件では左右いずれかの方向から後ろに振り返って観察しました。各試行では、表情強度が連続的に変化する刺激に対して、「無表情か感情的か」を二択で判断しました。例えば怒り顔を対象とする場合には、無表情から怒り顔までの中間段階の顔をモーフィングによって作成し、それが無表情に見えるか怒り顔に見えるかを応答しました。これらの応答データに基づき、正面条件と背後条件それぞれにおける表情判断のバイアスを算出しました。
実験1では、怒り顔と幸せ顔を対象に検証を行いました。その結果、いずれの表情においても、背後に呈示された顔は前方よりも表情が強く知覚されました。この現象が身体の回転によるものか、位置そのものによるものかを検討するため、実験2では仮想的な手鏡を用いて、振り向かずに背後の顔を観察する条件を導入しました。その結果、怒り顔では身体の回転なしでも同様の効果が見られました。一方で、幸せ顔(実験3)および恐怖顔(実験4)では、この条件設定において同様の効果は確認されませんでした。ただし、いずれの実験においても、背後の刺激を振り返って観察した場合には、表情増強の効果が一貫して観察されました。
これらの結果は、表情認知が単なる顔の特徴処理にとどまらず、「どこにその顔があるか」という自己中心的な空間情報にも依存していることを示しています。特に、観察者の背後に位置する顔に対して知覚が増強される現象は、背後に存在する情動的に顕著な刺激(例:脅威)を優先的に処理する空間的な知覚バイアスを反映している可能性があります。
本研究の筆頭著者である情報・知能工学系の田村秀希助教は次のように述べています。「従来の多くの視覚心理物理実験は正面の知覚を中心に検討してきましたが、本研究では背後に対する知覚にも系統的な偏りがある可能性を示しました。私たちの知覚がどのように空間に依存しているのかを理解する上で興味深い結果だと考えています。」
<今後の展望>
本研究は顔という社会的刺激を対象としましたが、今後は顔以外の物体や、色や形といったより低次の視覚特徴においても同様の効果が見られるかを検証することで、この空間バイアスがどの程度一般的な現象であるかを明らかにする必要があります。また、信頼性判断や魅力度評価など、より高次の社会的判断が自己中心的な空間位置によってどのように変化するかを検討することも重要です。これらの知見は、将来的にインターフェース設計やヒューマンエージェントインタラクションにおいて、ヒトがどの方向にどのような感情や注意を向けるかを理解する基盤となることが期待されます。
<論文情報>
Tamura, H.*, Kobayashi, Y., Nakauchi, S., & Minami, T. (2026). Enhanced emotion perceptionforfacesbehindtheobserver.Cognition,273,106532.https://doi.org/10.1016/j.cognition.2026.106532
(*: 責任著者)
<謝辞>
This work was supported by JSPS KAKENHI (Grant Numbers JP25K21323 to H.T., JP25H01141 to S.N., and JP23KK0183 to T.M.). This study was based on the results obtained from project JPNP20004, which was subsidized by the New Energy and Industrial Technology Development Organization (NEDO). The authors wish to thank Teruyuki Inoue and Yuta Matsubara for supporting the data collection.
本研究の一部は、世界で活躍できる研究者戦略育成事業(文部科学省)の採択事業である「世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業」(T-GEx)の支援を受けたものです。
Journal
Cognition
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Publication Date
30-Mar-2026