image: Concept and experimental demonstration of terahertz circular dichroism imaging. Circularly polarized terahertz radiation (left: blue, right: red) interacts with a moiré metasurface, producing distinct spectral responses and spatially resolved circular dichroism distributions (top). The chirality-dependent response reverses for mirror-imaged structures, demonstrating the ability to visualize the spatial distributions of chirality.
Credit: Professor Katsuhiko Miyamoto from Chiba University, Japan
■研究の背景
物質には、右回りのネジと左回りのネジのように、鏡に映した像が元の形と重ならない「キラリティ(鏡像異性)」という性質があります。このキラリティを調べる代表的な手法が「円二色性(CD)計測」であり、創薬や材料科学において広く利用されています。特にテラヘルツ波は、分子集団の振動やタンパク質の高次構造など、物質の「低エネルギー領域」の動きに敏感であるため、可視光や赤外線では見えにくい立体的な「ねじれ」構造を調べる手段として注目されています。しかし、従来のテラヘルツ波によるCD計測は、試料全体を平均的に測定する「点測定」が主流でした。そのため試料内部に異なるキラリティが分布している場合、それぞれの信号が打ち消し合い、局所的な構造情報を取得できないという課題がありました。このような背景から、キラリティの空間分布を直接“見える化”できる新しい計測技術の確立が求められていました。
■研究成果のポイント(詳細は別添参照)
- 世界初の高精度テラヘルツ・キラリティ撮像技術の開発: 3~6テラヘルツという非常に広い周波数帯域で、光の「右巻き・左巻き」を正確に見分けることができる分光イメージング装置を構築した。これにより、髪の毛の太さ程度の空間分解能で、キラリティ分布のマッピングが可能となった。
- 人工構造体「モアレ」を利用してねじれを自由に設計: 銀の円盤を並べたシートを、わずかに角度をずらして重ねることで生じる「モアレ模様」を利用した。この人工構造体(メタ表面)によって、右回りと左回りのキラリティが複雑に混在する状態を人工的に作り出し、検証モデルとして活用した。
- 「右ねじれ」と「左ねじれ」の反転現象を直接観測: イメージングの結果、一枚のシートの中に「右巻きの性質を示す領域」と「左巻きの性質を示す領域」が交互に並んでいる様子を可視化した。これは従来の平均化された測定では決して観測できなかった現象である。
- ミクロ構造とマクロ構造が相互作用する仕組みを解明: 円盤1つ1つの配置(ミクロ構造)と、重ね合わせによって生じる大きな模様(マクロ構造)の両方が、テラヘルツ波との相互作用を支配していることを理論と実験の両面から証明した。
■今後の展望
本研究で確立したイメージングプラットフォームは、今後2~15テラヘルツまでのより広い周波数帯への拡張が期待されます。テラヘルツ波による「ねじれの可視化」は、目に見えないミクロ構造を解析する新しい基盤技術として、以下のような分野への応用が期待されます。
医療・創薬: タンパク質の異常凝集体(アミロイドなど)の分布を可視化する新しい診断技術
超高速通信: 次世代の通信(6G)で求められる光のねじれを利用した高度な信号制御デバイス評価・検査
新材料開発: 量子材料やソフトマテリアル内部の微細な構造のゆがみを検出し、材料特性の向上に繋げる解析技術
■用語解説
注1)モアレ型メタ表面:2つの規則的な微細構造をわずかにずらして重ねることで生じるモアレ構造を、テラヘルツ波に対して人工的に実現した平面材料。通常は現れない「ねじれ構造」による特異な波動制御が可能となる。
注2)キラリティ(鏡像異性):物体や分子が、鏡に映した像と元の形が重ならない性質のこと。右ねじと左ねじの関係が代表例で、「右向き」「左向き」という向きの違いが物質の性質や働きに大きく影響する。創薬や材料科学では、この違いを見分けることが重要となる。
注3)テラヘルツ(THz)波:電波と光(赤外線)の中間に位置する電磁波で、1秒間に約1兆回振動する周波数帯を持つ。分子や材料の集団的な振動や柔らかい動きに敏感で、可視光では見えない物質の内部構造を調べる手段として注目されている。
注4)円二色性(Circular Dichroism:CD):右回りと左回りに回転する円偏光の光に対して、物質が異なる反応を示す性質のこと。物質の「右ねじれ・左ねじれ」を調べる代表的な手法で、分子や材料の立体構造の解析に広く用いられる。
***
■論文情報
タイトル:Multiscale chirality in moiré metasurfaces revealed by terahertz circular dichroism spectroscopic imaging
著者:Uina Chiba, Shota Tsuji, Gaku Oritani, Takumi Yoichi, Rinpei Sasaki, Takeo Minari, Seigo Ohno, Katsuhiko Miyamoto
雑誌名:ACS Photonics
DOI:10.1021/acsphotonics.6c00372
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって実施されました。
・日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP23K23248,JP24KK0108,JP22K18979,JP23K04567)
・科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR2036)など
<研究に関するお問い合わせ>
千葉大学大学院工学研究院 教授 宮本 克彦
Tel: 043-290-3486 Mail: k-miyamoto [at] faculty.chiba-u.jp
<広報・報道に関するお問い合わせ>
千葉大学 広報室
Tel: 043-290-2018 Mail: koho-press [at] chiba-u.jp
東北大学 理学部 広報・アウトリーチ支援室
Tel: 022-795-6708 Mail: sci-pr [at] mail.sci.tohoku.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
Tel: 03-5214-8404 Mail: jstkoho [at] jst.go.jp
<JST事業に関するお問い合わせ>
科学技術振興機構 創発的研究推進部 加藤 豪
Tel: 03-5214-7276 Mail:souhatsu-inquiry [at] jst.go.jp
※[at]を@に置き換えてください。
Journal
ACS Photonics
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Multiscale chirality in moiré metasurfaces revealed by terahertz circular dichroism spectroscopic imaging
COI Statement
The authors declare no conflicts of interest.