image: Overview of the experiment. Participants wore a head-mounted display and observed objects whose material appearance varied continuously from metal to glass in a VR environment. While freely exploring and manipulating the objects, they judged whether each object appeared more metallic or more glass-like.
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<概要>
豊橋技術科学大学情報・知能工学系認知神経工学研究室、視覚行動研究室、視覚認知情報学研究室の研究チーム(代表者:田村秀希准教授)は、ヒトが物体の材質を見分ける際に、頭を動かして視点を変えたり、物体を手で操作したりする探索行動をどのように使い分けているのかを、仮想現実(VR)環境を用いて心理物理学的に調査しました。参加者はヘッドマウントディスプレイを装着し、VR空間内の物体を自由に観察・操作しながら、その物体が金属に近いかガラスに近いかを判断しました。その結果、金属ともガラスとも判断しにくい曖昧な材質ほど、参加者は頭や手をより積極的に動かして観察することが分かりました。そして、そのような探索行動の違いは、材質をより正確に見分ける傾向とも関連していました。さらに、複数の物体を同時に比較できる場面では頭を動かして視点を変えることが多く、一つの物体だけを観察する場面では手で物体を操作することが多いなど、参加者は状況に応じて探索戦略を柔軟に切り替えていました。本研究は,ヒトの材質識別が,対象を「見る」だけでなく,頭や手を動かして必要な視覚情報を得るために、自ら「見に行く」過程によって支えられている可能性を示しました。
本研究の成果は、2026年6月8日付でJournal of Vision誌に掲載されました。
https://doi.org/10.1167/jov.26.6.4
<詳細>
私たちは、物体表面の光沢、透明感、反射、背景の歪みなどの視覚情報から、その物体が何の素材でできているのかを判断しています。例えば、金属は周囲の環境を鏡のように反射し、ガラスは背景を透過・屈折させます。しかし、周囲の環境や観察方向によっては、金属とガラスの見え方が似てしまうことがあります。このような場合、正面から一度見ただけでは材質を判断することが難しくなります。例えば宝石を鑑定するときのように、私たちは視点を変えたり物体を動かしたりすることで、材質識別に役立つ視覚情報を得ている可能性があります。そこで本研究では、VR環境内で金属からガラスまで連続的に変化するCG物体を作成し、参加者がその物体をどのように観察・操作しながら材質を識別するのかを調べました。参加者は椅子に座ってヘッドマウントディスプレイを装着し、頭を動かして視点を変えながら、手に持ったコントローラでVR空間内の物体を移動・回転させることができました。実験中には、頭部の位置や向き、手による物体操作、物体の観察時間などを記録しました。
実験1では、参加者が標的物体を自由に動かしながら、その物体が金属に近いかガラスに近いかを連続的に評定しました。その結果、金属とガラスの中間にあたる曖昧な材質ほど、参加者は物体を大きく、頻繁に動かして観察することが分かりました。また、探索行動の違いは、材質をより正確に見分ける傾向とも関連していました。
実験2では、「頭を動かして視点を変えること(視点移動)」と「手で物体を動かすこと(物体操作)」のどちらが材質識別に重要なのかを調べるため、視点移動と物体操作をそれぞれ可能または不可能にした4条件を設定しました。この実験では、1つの標的物体と2つの参照物体を同時に比較できるよう配置し、参加者は標的物体が金属かガラスかを識別しました。その結果、複数の物体を同時に比較できる状況では、手で物体を動かすことよりも、頭を動かして視点を変えることの方が材質識別に効果的であることが分かりました。
実験3では、参照物体を取り除き、1つの標的物体のみを観察して金属かガラスかを判断する課題を行いました。その結果、実験2とは対照的に、頭を動かして視点を変える効果は小さくなり、手で物体を動かすことの方が材質識別に有効であることが示されました。つまり、ヒトは常に同じ観察方法を用いるのではなく、その場で得られる視覚情報に応じて、視点移動と物体操作を柔軟に使い分けていると考えられます。
さらに、参加者ごとの探索行動を詳しく分析したところ、物体を自分に近づける、物体に自分が近づく、上下方向から観察するといった探索戦略には個人差があることも分かりました。これらの結果は、材質知覚が固定された視点から物体を受動的に観察するだけではなく、観察者自身が頭や手を動かして必要な視覚情報を自ら「見に行く」能動的な知覚過程であることを示唆しています。
本研究の筆頭著者である情報・知能工学専攻博士前期課程2年の野町竜氏は、次のように述べています。「私たちは物体を見るとき、ただ目に入った画像を処理しているだけではありません。判断が難しいときには、頭を動かしたり、物体を手で動かしたりして、自分にとって必要な情報を探しにいきます。本研究では、そのような日常的には当たり前に行っている行動が、材質を見分けるために必要な視覚情報を得るうえで重要な役割を果たしている可能性を示しました。」
<今後の展望>
本研究では、視覚情報に基づく金属とガラスの材質識別を対象としました。今後は、布、石、プラスチックなど、より多様な材質へ研究対象を広げることで、ヒトが材質ごとにどのような探索行動を選択し、必要な視覚情報を獲得しているのかを明らかにしていきます。また、本研究では触覚情報を材質識別に直接利用しない条件で実験を行いましたが、現実世界では、手触り、重さ、温度などの触覚情報も材質判断に重要な役割を果たします。今後は、視覚による能動的な探索と触覚情報を統合した研究を進めることで、私たちが日常生活で行っている、より自然な材質認識の仕組みの解明につながることが期待されます。
さらに、本研究で明らかになった「必要な情報を得るために自ら見に行く」という能動的知覚の考え方は、VR・AR環境におけるリアルな材質表現、人間の探索行動を取り入れたロボットやAIによる物体認識、さらにはヒトの知覚特性に基づくインターフェース設計などへの応用が期待されます。
<論文情報>
Nomachi, R†., Tamura, H†*., Helgeland, K. A., Morimoto, T., Nakauchi, S., & Minami, T. (2026). Material discrimination relies on context-dependent active sensing strategies. Journal of Vision, 26(6):4, 1–24. https://doi.org/10.1167/jov.26.6.4
(*: 責任著者, †: 共同第一著者)
<謝辞>
This work was supported by JSPS KAKENHI (Grant Numbers JP25K21323 to H.T., JP25H01141 to S.N., and JP23KK0183 to T.M.) and the Toukai Foundation for Technology.
本研究の一部は、世界で活躍できる研究者戦略育成事業(文部科学省)の採択事業である「世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業」(T-GEx)の支援を受けたものです。
Journal
Journal of Vision
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Publication Date
8-Jun-2026