image: 図:菌糸連結を介した炭素移動を実証するU字型ポット栽培試験 view more
Credit: Professor Masahide Yamato from Chiba University, Japan
■研究の背景
植物の多くは、菌根菌と呼ばれる菌類と共生し、光合成産物である炭素化合物を菌根菌に与え、その代わりに土壌中の養分を受け取る相利共生の関係を築いています。一方、主に担子菌類注2)と共生するラン科やツツジ科の一部には、光合成能力を失い、菌根菌から炭素化合物を受け取って生活する(部分的)菌従属栄養植物注3)が知られています。これらの植物では、共生菌である担子菌類が光合成植物よりも炭素同位体13Cを多く含む傾向があるため、野外で採取した植物の炭素同位体比(δ13C値)注4)を調べることで、菌類からの炭素獲得を推定できます。しかし、多くの植物と共生するアーバスキュラー菌根(AM)菌は、担子菌類ほど13Cに富むわけではありません。そのため、AM菌と共生する(部分的)菌従属栄養植物については、野外で採取した植物のδ13C値だけでは、菌類からの炭素獲得を明らかにすることが困難でした。そこで本研究では、C4植物注5)がC3植物注6)よりも13Cを多く含むことによるδ13C値の違いを「標識」として利用し、栽培試験によって菌糸を介した植物間の炭素移動を検証しました。
■研究成果のポイント
本研究では、U字型のポットを作製し、30 μm(マイクロメートル)の非常に網目の細かいナイロンメッシュを用いて、C3植物またはC4植物を栽培する区画と、コケリンドウを育てる区画を分けました(図)。このメッシュはAM菌の菌糸を通しますが、植物の根は通さないため、根同士の直接的な接触を防ぐことができます。また、U字型の構造により、C4植物の根の呼吸によって生じた13Cに富む二酸化炭素が、コケリンドウのδ13C値に与える影響を低減しました。栽培するC3植物およびC4植物にAM菌を接種し、コケリンドウを栽培したところ、C4植物とともに栽培した個体において、C3植物とともに栽培した個体よりも有意に高いδ13C値が得られました。また、C4植物とともに栽培した個体では、δ13C値が高い個体、すなわち炭素化合物を多く受け取った個体ほど成長が促進されました。この結果は菌根菌を介して炭素化合物が植物間を移動し、この従属栄養性がコケリンドウの成長に寄与したことを示しています。
■今後の展望
本研究で開発したU字型ポットを用いた栽培実験系により、今後、さまざまな植物種で、AM菌を介した植物間の炭素移動の有無を検証できるようになります。AM菌を介した炭素移動が多様な植物で確認されれば、地下の菌糸ネットワークは単なる養分吸収の経路ではなく、植物間で炭素化合物が移動する「エネルギー分配」の場としても機能している可能性があります。このような植物と菌類の関係は、植物の成長戦略、生態的ニッチ、さらには植物多様性の成立を理解するうえで、新たな視点をもたらすと期待されます。
■用語解説
注1)アーバスキュラー菌根(AM)菌:グロムス亜門の菌類で、多くの植物と共生し、根の皮層細胞に樹枝状体をつくる。土壌中の窒素やリン酸を植物に供給し、光合成産物である炭素化合物を受け取る。本研究においてはDominikia sp.を利用して検証を行った。
注2)担子菌類:菌糸が集まって傘状の子実体を形成し、傘の裏面などに担子器を生じ、担子胞子をつくる菌類。マツタケ、シイタケなどが、担子菌類として知られる。
注3)(部分的)菌従属栄養植物:共生菌類に炭素源を依存する植物を菌従属栄養植物という。光合成を行う緑色植物が菌類からも炭素を得る場合、部分的菌従属栄養植物という。
注4)炭素同位体比(δ13C):重さの異なる炭素の割合が、標準物質と比べてどの程度高いか、または低いかを千分率(‰:パーミル)で表した値。「δ(デルタ)値」として表記される。
注5)C4植物:光合成の際に、二酸化炭素をC4回路においてC4化合物(オキサロ酢酸)に取り込む植物。トウモロコシ、サトウキビ、ススキなどがC4植物として知られる。本研究においてはギニアグラスを利用して検証を行った。
注6)C3植物:光合成の際に、二酸化炭素をカルビン・ベンソン回路においてC3化合物(3-ホスホグリセリン酸)に取り込む植物。ほとんどの植物はC3植物である。本研究においてはアルファルファを利用して検証を行った。
■論文情報
タイトル:Partial mycoheterotrophy in the arbuscular mycorrhizal Gentiana squarrosa (Gentianaceae) demonstrated by coculture assays using C3 and C4 plants
著者:Masahide Yamato, Moe Sasuga, Keito Shimabukuro, Ryota Kusakabe, Kenji Suetsugu
雑誌名:Mycorrhiza
DOI:https://doi.org/10.1007/s00572-026-01271-6
■研究プロジェクトについて
本研究は、JSPS科研費(25K09767)の支援によって実施されました。
Journal
Mycorrhiza
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Partial mycoheterotrophy in the arbuscular mycorrhizal Gentiana squarrosa (Gentianaceae) demonstrated by coculture assays using C3 and C4 plants
Article Publication Date
28-May-2026
COI Statement
The authors declare no competing interests.