News Release

標準的なトラッキング解析から、AIがナノ粒子の形態を判別

Peer-Reviewed Publication

Innovation Center of NanoMedicine

AIを用いてナノ粒子の形態を識別する手法

image: 標準的なナノ粒子トラッキング解析で取得されるブラウン運動軌跡と散乱光強度の時間変動を統合し、AIによってナノ粒子の形態を識別する手法の概要 view more 

Credit: 東京大学大学院工学系研究科 一木研究室

東京大学とナノ医療イノベーションセンター(iCONM)の研究グループは、粒子サイズ測定法として広く用いられている標準的なナノ粒子トラッキング解析(Nanoparticle Tracking Analysis: NTA)のデータを用いて、液中のナノ粒子の形態を識別する人工知能(AI)手法を開発しました。本手法は、既存の測定装置に改造を加えることなく、非球形ナノ粒子を80%以上の精度で分類できることを実証しました。

本研究は、標準的なNTA測定データにこれまで十分活用されていなかった情報が含まれており、それを深層学習によって抽出することでナノ粒子評価を高度化できることを示したものです。本成果は ACS Applied Nano Materials に掲載されました。

なぜナノ粒子の形態が重要なのか

ナノ粒子の形態は、その拡散特性、光学特性、生体との相互作用を左右し、ドラッグデリバリー、細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EV)研究、環境モニタリング、先端材料開発など幅広い分野で性能を決定づける重要な要素です。

しかし、液中に存在するナノ粒子の形態を評価することは容易ではありません。透過型電子顕微鏡(TEM)などは微細構造を観察できますが、試料を乾燥または固定する必要があり、本来の液中環境における多数の粒子を迅速かつ高スループットで評価するには適していません。

ナノ粒子トラッキング解析(NTA)は、液中をブラウン運動する単一粒子を追跡して粒径を測定する方法として広く利用されています。標準的なNTA装置では、散乱光スポットの軌跡と散乱光強度の両方が記録されます。しかし実際には、解析の大部分は粒子軌跡に基づく粒径推定に限られており、測定データに含まれるその他の情報は十分に利用されてきませんでした。

NTAデータからこれまで活用されていなかった情報を抽出

研究グループは、NTA測定データに含まれる二つの情報、

  • 単一粒子のブラウン運動軌跡
  • 散乱光強度の時間変動

を統合して解析する深層学習フレームワークを開発しました。

このフレームワークでは、1次元畳み込みニューラルネットワーク(1D-CNN)と双方向長短期記憶ネットワーク(Bi-LSTM)を組み合わせています。この構成により、粒子の運動情報と光学応答を時系列データとして同時に学習することが可能となりました。従来の統計的特徴量だけに依存するのではなく、AIが両者の時間変化を解析し、ナノ粒子の形態に関連するパターンを抽出します。

研究チームは、球状、棒状、板状という3種類の形態をもつ金ナノ粒子を用いて本手法を評価しました。

2種類の粒子を識別する二値分類では、統合解析は単一情報に基づくモデルを一貫して上回る性能を示しました。100フレーム(約1秒)の測定データを用いた場合、二値分類器はいずれも0.82を超える分類精度を達成しました。

さらに、3種類すべてを同時に識別する多値分類では、各クラス平均で約80%の正答率を達成しました。また、観測データが約20フレーム(約0.2秒)と短い場合や、粒子数が限られた条件でも安定した分類性能を維持しました。

これらの結果は、標準的なNTA測定データには従来考えられていた以上に豊富な情報が含まれており、AIによってその情報を形態識別に有効活用できることを示しています。

既存装置の価値を高めるソフトウェア技術

本手法の大きな特徴は、新たな測定装置を必要としないことです。

研究グループは、新しい計測装置を開発するのではなく、既存のNTA装置から得られるデータの解析価値を高めるアプローチを取りました。これにより、解析ソフトウェアの高度化によって既存のナノ粒子測定ワークフローを発展させる可能性が開かれます。

東京大学大学院工学系研究科およびiCONMの一木隆範教授は、次のように述べています。

「私たちの目標は、この技術を将来のNTAシステムに組み込み、実用的なナノ粒子解析ツールとして社会実装することです。ナノ粒子の活用がますます進む医療や産業分野に貢献できることを期待しています。」

本手法は、ごく少量の試料と短時間の測定で解析可能であることから、試料量が限られる応用分野に特に有用です。具体的には、ナノ医薬品やナノ粒子医薬の品質管理、細胞外小胞をはじめとする生体ナノ粒子の特性評価、人工ナノ粒子や環境ナノ粒子のモニタリング、さらにはコロイド材料の評価などへの応用が期待されます。

研究グループは、AIと既存のナノ粒子評価技術を組み合わせることで、現在広く利用されている測定装置の簡便性を維持しながら、より多面的なナノ粒子評価が可能になると考えています。本研究は、新たな計測装置を開発することなく、既存の実験データに含まれるこれまで活用されていなかった情報をAIによって引き出し、ナノ粒子評価技術の可能性を広げることを示した成果です。

論文情報

Hiromi Kuramochi, Keisuke Yamamoto, Kento Toyoda, Yasushi Shibuta, and Takanori Ichiki

Shape-Resolved Nanoparticle Analysis from Standard Nanoparticle Tracking Analysis via Integrated Motion and Scattering Signatures

ACS Applied Nano Materials(2026)

DOI: 10.1021/acsanm.6c01701

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT、JPMJPF2202)の支援を受けて実施されました。

 

 


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.