image: 動き(ブレ)補正の前にピクセルを再分割することにより、キャプチャされたフレーム内のより微妙な動きが補正され、限られた状況で、取得中に課される物理的制限を克服して、より高解像度の処理が可能になります。 view more
Credit: Raymond N. Burton-Smith
発表のポイント
- クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)データから、物理的解像度限界を超える情報を復元する新技術「PASR法」を開発
- 追加測定や特殊撮影を必要とせず、既存データや標準的解析ソフトウェアに適用可能
- 巨大ウイルスや不均一な巨大分子複合体など、解析が難しい試料研究への応用に期待
【研究の背景】
クライオ電子顕微鏡法※1は、タンパク質や巨大分子複合体、ウイルス粒子などの立体構造を原子レベルで解析できる技術として急速に発展しています。特に単粒子解析法(SPA)※2の進歩によって、結晶化が困難な膜タンパク質や巨大分子複合体の解析が可能となり、生命科学研究や創薬研究において重要な役割を果たしています。
一方で、cryo-EMには「ナイキスト限界(Nyquist limit)」※3と呼ばれる物理的な解像度限界があります。より高い分解能を得るためには高倍率でデータを再取得する必要がありますが、高倍率撮影では1枚の画像に含まれる粒子数が減少するため、測定時間やデータ保存容量が大幅に増加するという課題がありました。
【研究の成果】
今回研究グループが開発したPASR法では、取得済みムービーデータの各画素を計算機上で細分化し、動き(ブレ)補正時にフレーム間の微小な位置ずれ情報を利用することで、従来取得できなかった高周波情報を復元します(図1)。
研究チームは、アポフェリチン、ジャックビーンウレアーゼ、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ノダウイルス、巨大ウイルスのメルボルンウイルスなどのデータセットを解析し、通常のカウンティングモード※4データからでも物理的ナイキスト限界を超える分解能向上を確認しました(図2)。
また、PASR法はRELIONやCryoSPARCなど、現在広く利用されている標準的なcryo-EM解析ソフトウェアで利用可能であり、特殊な解析環境を必要としません。さらに、撮影時超解像データと組み合わせることで、従来の超解像ナイキスト限界を超える再構成にも成功しました。
【今後の展開】
PASR法は、巨大ウイルスや柔軟性・不均一性の高い巨大分子複合体など、粒子数確保が重要となる試料解析への応用が期待されます。低倍率で多数の粒子を撮影しながら高分解能解析を可能にできるため、データ取得効率向上や顕微鏡使用時間短縮、データ保存容量削減への貢献が期待されます。
研究グループは今後、PASR法をcryo-EM解析パイプラインへ統合し、リアルタイム処理への応用を目指します。
【用語解説】
※1:クライオ電子顕微鏡法
クライオ電子顕微鏡法は、タンパク質やウイルスなどの生体分子を急速凍結して観察する最先端の顕微鏡技術です。生体分子の形や機能を原子レベルで可視化できるため、生命現象の理解や新薬開発に大きく貢献しています。
※2:単粒子解析法
単粒子解析法は、タンパク質やウイルスをさまざまな方向から撮影した多数の画像を組み合わせて、立体的な形を再現する技術です。生命のしくみの解明や病気の治療法・新薬の開発に活用されています。
※3:ナイキスト限界(Nyquist limit)
デジタル画像で記録できる細かさの理論上の限界。カメラの画素サイズによって決まり、それより細かな構造情報は正確に記録できない。クライオ電子顕微鏡では、達成可能な分解能の目安として用いられる。
※4:カウンティングモード
カウンティングモードは、電子顕微鏡の高性能カメラが飛来した電子を1個ずつ検出して数える撮影方式です。従来よりもノイズの少ない鮮明な画像が得られるため、タンパク質やウイルスなどの微細な構造を高精度に解析することができます。
※5:Å(オングストローム)
Å(オングストローム)は、原子や分子の大きさを表すために用いられる長さの単位です。1 Åは100億分の1メートル(0.1ナノメートル)に相当します。タンパク質やDNAの構造解析では、どれだけ細かく観察できるかを示す分解能の単位として広く使われています。
Journal
IUCrJ
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Post-acquisition super resolution for cryo-electron microscopy
Article Publication Date
2-Sep-2026