News Release

同じ速さでも後ろから近づくと速く感じる

~ヒトの知覚特性を考慮したロボットの動作設計へ~

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

実験イメージ.正面または後方から接近するロボットに対する速度を判断する実験

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<概要>

豊橋技術科学大学情報・知能工学系視覚行動研究室、視覚認知情報学研究室、認知神経工学研究室の研究チーム(代表者:田村秀希准教授)は、自律移動型ロボットなどの物体がヒトに近づく際、同じ速度であっても、後ろから近づく場合には正面から近づく場合よりもその接近速度が速く感じられることを明らかにしました。実物の自律移動型ロボットやVR(仮想現実)環境を用いた計5つの実験を行った結果、全実験を通して92%の参加者で「正面からの接近よりも後方からの接近をより速く感じた」という知覚の偏りがみられました。そして、この現象はロボット特有の見た目やモーター音などが要因である可能性は低く、後方を振り返って接近してくる物体を見る際の視覚に依存した要因に由来することが示唆されました。さらに、この速度知覚の偏りをロボットの移動経路を決定するモデルに組み込み、ロボットが歩行者を後ろから追い越す場面をシミュレーションしました。その結果、ヒトの知覚特性を考慮した場合には、従来のモデルよりも早い段階から歩行者との距離をより大きく保ちながら回避する軌道が生成されることが示唆されました。

本研究の成果は、2026年9月10日付でIEEE Robotics and Automation Letters誌に掲載されました。https://doi.org/10.1109/LRA.2026.3732839

<詳細>

近年、自律移動型ロボットは、物流や配送、案内など、ヒトと同じ空間で活動するさまざまな場面への導入が進んでいます。こうしたロボットが私たちの身近な環境で安全かつ自然に移動するためには、ロボットが単に障害物に衝突しないだけではなく、ヒトがその動きをどのように知覚するかを考慮して動作を設計することが重要です。これまでの先行研究から、ロボットに後ろから近づかれる場合には、正面から近づかれる場合よりも不快に感じたり、より大きな距離を取りたくなったりすることが報告されていました。しかし、そもそも接近してくるロボットの「速さ」の感じ方そのものが、接近方向によって変化するのかについては、十分に明らかになっていませんでした。そこで本研究では、正面または後方から接近する物体の速度がどのように知覚されるのかを心理物理学的に検証しました。

本研究は計5つの実験を行いました。最初の実験では、実物の自律移動型ロボットを参加者の正面または後方から接近させ、その速度を参加者に判断してもらいました。参加者はあらかじめ0.5 m/sと1.0 m/sの2種類の基準速度を記憶し、その後、0.5~1.0 m/sの間のいずれかの速度で接近するロボットについて、「遅い基準速度」と「速い基準速度」のどちらに近く感じたかを回答しました。

その結果、物理的には同じ速度で移動した場合でも、後ろから接近するロボットは正面から接近するロボットより速く感じられることがわかりました。そして、条件を変えたその後の一連の実験から、この速度知覚の違いは、身体の向きやロボットとの位置関係、ロボット特有の見た目、モーター音などによるものではなく、後方を振り返って物体を見る際の視覚に依存した要因に由来することが示唆されました。

さらに、この知覚特性がロボットの動作設計にどのような影響を与えるかを検討しました。ロボットの移動経路を決定するモデルに、実験から得られた「後方からの接近をより速く感じる」という知覚の偏りを組み込み、ロボットが歩行者を後ろから追い越す場面をシミュレーションしました。その結果、知覚の偏りを考慮したモデルでは、そうでないモデルと比べてロボットがより早い段階から回避を開始し、歩行者からより大きな距離を取る軌道が生成されました。知覚の偏りが最も大きかった参加者の値を用いた場合には、従来モデルと比較して最大0.40 m外側を通り、回避開始も0.57秒早くなりました。

本研究の第一著者である情報・知能工学専攻博士後期課程2年山内達登さんは以下のように述べています。「ロボットの速度というと、これまでは実際に何m/sで動いているか、という物理的な速度を基準に考えることが一般的でした。しかし今回の研究から、ヒトから見た接近方向によってその速さの感じ方が異なることがわかりました。今後、配送ロボットをはじめとした自律移動型ロボットが私たちの身近な空間を移動するようになる中で、物理的に安全であることに加えて、ヒトが実際にどのような速さとして知覚するのかを考慮してロボットの動きを設計することが、より安心感のあるヒトとロボットの共存につながると考えています。」

<今後の展望>

今回の実験では主に速度そのものの知覚を調べており、その知覚の違いが実際の安心感や快適さ、回避行動にどのようにつながるかについては、今後さらに検証する必要があります。加えて、今回採用した0.5~1.0 m/s以外の速度や、大きさ・形状の異なるロボットでも同様の知覚特性が生じるかを調べることも重要です。

<論文情報>

Yamauchi, T., Minami, T., Nakauchi, S., & Tamura, H. (2026). Speed perception bias for objects approaching from behind and its implications for robot motion design. IEEE Robotics and Automation Letters, Early Access: https://doi.org/10.1109/LRA.2026.3732839

<謝辞>

This study was based on the results obtained from the JPNP20004 project subsidized by the New Energy and Industrial Technology Development Organization (NEDO). This work was supported by JST Grant Number JPMJPF2502, the Nitto Foundation, and the Foundation of Amano Institute of Technology.

本研究の一部は、世界で活躍できる研究者戦略育成事業(文部科学省)の採択事業である「世界的課題を解決する知の「開拓者」育成事業」(T-GEx)の支援を受けたものです。


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