News Release

熊本地震後にみられた地下水位の異常上昇の原因

巨大地震による山体地下水の解放を捉えた

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Stable Isotopic Compositions of Various Water Samples

image: 

Prior to the earthquake, Kumamoto City area groundwater had broad stable isotopic compositional features that included low elevation mountain springs, recharge area soil waters, and Shirakawa river waters (black frame of b, c).

After the large 2016 earthquakes, the compositional range became more limited (blue frame of b, c), and similar to the composition of the low elevation mountain springs.

a. Comparative samples, b. Groundwater samples in recharge areas, c. Groundwater samples in flow and runoff areas

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Credit: Associate Professor Takahiro Hosono

熊本大学、関西学院大学の研究グループが、熊本地震後 に広域地下水流動系の涵養域を中心に観測された地下水位の異常上昇のメカニズムを解明しました。大地震発生に伴う水位上昇や水量増加については、これまで世界で多く観測されてきましたが、その原因やプロセスの詳細については不明な点が多く残されていました。地震発生前後に採水した様々な水試料の安定同位体比を分析することで、この水位異常上昇をもたらした原因を解明しました。本研究成果は、安全な水利用対策に生かされることが期待されます。

地震発生に伴い池や井戸の水が枯れる、突如流水が生じる、または水位が上昇するなどのいわゆる水文環境の変化は、古くはローマ時代に遡り、これまで世界の多くの地域で記述されてきました。その原因として、地殻変動による間隙水圧の変化、地震動による透水性の増大、また新たな亀裂を通した水の移動など、様々な説が提案されてきました。これら原因を特定するためには、手掛かりとなる情報を入手するための観測井戸や水源または河川観測地の存在が重要となります。ところが、特に内陸直下型地震の場合、地震が起こった地域でたまたまこれら観測点が時空間的に整っていることは一般的に希だといえます。また、災害発生前から発生後のデータと比較するために必要な各種データが揃っているケースはますます少なくなります。このような背景から、地震によってどのような水文環境の変化が生じるのかという問いに対し、私たちはこれまであまり明瞭なイメージを持てていませんでした。

九州中部に位置する熊本市周辺地域は飲用水源のほぼ100%を地下水で賄っている国内随一の地下水都市として知られています。そのため、同地域では多くの観測井戸が存在し、水位や水質など様々なデータが継続的に観測されています。2016年、熊本地域の直下で巨大内陸地震が発生したため、結果的に地震発生前後の各データを比較できる十分な情報を入手でき、地震による水文環境の変化をこれまでになく詳細に捉えることに繋がりました。また、災害が地域のみずがめに及ぼす影響を把握することは、水資源の保全や健全な水利用を継続する上で重要といえます。こうした観点から、地元の大学である熊本大学の研究者らが中心となり、研究チームを発足させました。

今回注目したのは、本震発生後から認められた、特に広域地下水流動系の涵養域で顕著だった地下水位の異常上昇の原因です。この水位異常上昇は、本震発生から1年以内に最大10m程度の上昇ピークを記録し、その後落ち着いてはいるものの、本震から3年経過した時点でも続いています。この原因は、平常の水文サイクルとは異なる場所からの水の流入が生じたためだと考えられ、その起源について解析を行いました。

地球表層の水の安定同位体比は、蒸発や凝縮など地球上で起こる様々なプロセスを介してほんの僅かに変化するため、場所によって固有の数値をとるようになります。私達はこうした水の安定同位体比を水の起源を推定するマーカーとして利用することで、ターゲットとなる水がその場所に至る原因やプロセスを調べることができます。

今回、地震発生前後における水の安定同位体比を比較した結果、次のことが明らかになりました。地震発生前は、地域の地下水は低標高山体帯水層地下水、涵養域土壌水、白川中流域における河川水由来の浸透水が主な涵養源となるような水循環系が発達していました。地震発生後、阿蘇外輪山の西側にて発生した地震破砕により山体帯水層の透水性が増加し、低標高山体を涵養源とするような山体に蓄えられていた地下水が解放される形で流下部にある広域地下水流動系のいわゆる�地下水プール�として知られる涵養域部分に付加されたため、同エリアの水位が上昇したと考えられます。さらに、一度地下水プールに付加された山体地下水は、選択流などを通じて地下水流動域から流出域にまで達し、本震直後に低下した地下水位を一年以内にほぼ回復させたことが分かりました。

地震発生により高まった透水性は、根詰まりなどが原因でまた元の状態に戻ることが想定されます。他の研究の見積もりを合わせると、多くの場所では本震発生から5年程度で元の水位レベルに落ち着くと推定しています。

研究を主導した細野高啓准教授は次のようにコメントしています。 「本研究は、巨大地震が地域に及ぼす水文環境変化を世界で初めて詳細に捉えたものです。発見された現象は、本邦と類似した気候・地質条件におかれている地帯では地球上のどこでも起こり得ます。本研究成果は、今後学術面だけでなく、災害時における地域の水利用の指針を構築する上で役立てられると期待されます。」

本研究成果は、学術雑誌誌「Nature Communications」に令和2年6月2日に掲載されました。

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[Source]

Hosono, T., Yamada, C., Manga, M., Wang, C.-Y., & Tanimizu, M. (2020). Stable isotopes show that earthquakes enhance permeability and release water from mountains. Nature Communications, 11(1). doi:10.1038/s41467-020-16604-y


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