News Release

骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果の実証

Peer-Reviewed Publication

The Institute of Medical Science, The University of Tokyo

Figure

image: Forest plots for hazard ratios (HR) of overall mortality, relapse, and non-relapse mortality by grade of acute GVHD in low-risk MDS (a) and high-risk MDS (b). Forest plots for hazard ratios (HR) of overall mortality, relapse, and non-relapse mortality by grade of chronic GVHD in low-risk MDS (c) and high-risk MDS (d). view more 

Credit: ©Takaaki Konuma

■発表のポイント

  • 日本造血細胞移植学会・日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データを用いて、骨髄異形成症候群(MDS)(注1)に対する同種造血細胞移植(注2)の移植片対腫瘍(GVT)効果(注3)を証明しました。
  • 本邦の登録データを用いることで、大規模に骨髄異形成症候群の症例に限定して移植片対腫瘍効果の実証を行い、その効果が有効な患者集団を同定しました。
  • 本研究は、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植において、さらなる治療成績向上やがん免疫療法の発展に役立つことが期待されます。

■発表概要

東京大学医科学研究所附属病院の小沼貴晶助教、日本造血細胞移植データセンターの熱田由子センター長らを含む日本造血細胞移植学会の成人骨髄異形成症候群ワーキンググループは、同種造血細胞移植における骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果について明らかにしました。

造血器腫瘍に対する同種造血細胞移植は、最も有効ながん免疫療法の一つとされており、その理由は同種免疫反応に伴う移植片対腫瘍効果によると考えられています。移植片対腫瘍効果は、移植片対宿主病(GVHD)(注4)の発症に伴う造血器腫瘍の再発抑制効果として評価されていますが、その効果は造血器疾患の種類や病期により異なると考えられています。

骨髄異形成症候群は、難治性の血球減少と血球の形態異常を特徴とする骨髄不全症候群の一つであり、同種造血細胞移植のみが唯一の根治的治療法と考えられています。これまで、骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果に関しては、急性骨髄性白血病とともに評価されていることが多く、骨髄異形成症候群のみに対する移植片対腫瘍(Graft-versus-MDS)効果の存在や有効な集団は明らかとされていませんでした。

今回、研究グループは、日本造血細胞移植学会・日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データを用いて、初回同種造血細胞移植を受けた骨髄異形成症候群3119例を対象として、移植片対宿主病の発症が再発率や生存率に影響を与えるかどうか後方視的解析(注5)を実施しました。

その結果、腫瘍量の多い高リスク群では、生存率の改善に寄与する移植片対腫瘍効果を認めました。今回の研究では、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植の移植片対腫瘍効果を実証した大規模な臨床研究であり、さらなる治療成績の改善やがん免疫療法の発展に役立つと考えています。

本研究成果は2020年9月7日、国際学術誌「Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research」(オンライン版)に掲載されました。

■発表内容

日本造血細胞移植学会・日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データにおいて、2001年から2017年に初回の同種造血細胞移植が行われた16歳から70歳の骨髄異形成症候群3119症例を対象として、移植片対宿主病の発症が再発率や生存率に影響を与えるかどうか、後方視的解析を実施しました。

年齢中央値54歳、移植時病期は、低リスク群1193例、高リスク群1926例でありました。ドナーとしては、HLA一致血縁ドナー826例、HLA一致非血縁ドナー1222例、非血縁臍帯血648例が多く用いられました。移植前処置は、骨髄破壊的前処置が1785例(58%)、移植片対宿主病の予防法として、カルシニューリン阻害剤とメソトレキサートが2633例(84%)でした。生存者の観察期間中央値55ヶ月において、移植後5年時点における生存率は、低リスク群では63%、高リスク群では48%でした。移植後5年時点における再発率は、低リスク群では15%、高リスク群では29%でした。

時間依存性共変量(注6)を用いた多変量解析において、グレードIII–IVの急性移植片対宿主病及び限局型及び全身型の慢性移植片対宿主病の発症が、高リスク群において、再発抑制効果を認めました(図b, d)。しかしながら、同時にグレードIII–IVの急性移植片対宿主病及び全身型の慢性移植片対宿主病の発症は、非再発死亡率の増加に影響しました(図b, d)。

​そのため、限局型の慢性移植片対宿主病の発症のみが、再発を抑制することで生存率の改善に貢献していることが分かりました(図d)。この効果は低リスク群で認められませんでした(図a,c)。

高リスク群で認められた移植片対腫瘍効果は、HLA一致血縁ドナーや骨髄破壊的前処置を受けた集団でも同様に認められました。また、臍帯血移植では、グレードI–IIの急性移植片対宿主病の発症が、再発率と非再発死亡率を抑制することで、生存率の改善に貢献していることが分かりました。

移植前処置、移植片対宿主病予防法、ドナーの多様化により、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植は拡大していることから、本研究で得られた移植片対腫瘍効果の実証および有効な集団を同定したことは、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植において、さらなる治療成績向上やがん免疫療法の発展に役立つことが期待されます。

###

■用語解説

(注1)骨髄異形成症候群(MDS): 難治性の血球減少と血球の形態異常を特徴とする骨髄不全症候群の一つ。

(注2)同種造血細胞移植:造血器疾患の治療法の一つ。大量の抗がん剤や全身放射線照射の後に、ドナーの骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血などの造血細胞を投与する。

(注3)移植片対腫瘍(GVT)効果:移植されたドナーの免疫細胞が、残存している可能性のある腫瘍細胞を攻撃することで生じる免疫療法としての効果。

(注4)移植片対宿主病:移植されたドナーの免疫細胞が、移植を受けた宿主に対して免疫学的反応を引き起こすことで生じる合併症。

(注5)後方視的解析:既存の診療情報を用いて、データ解析する方法。

(注6)時間依存性共変量:時間と共に変化する説明変数。本研究においては、移植片対宿主病を時間依存性共変量として扱い、統計解析を実施した。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.