News Release

慢性過敏性肺炎における肺の線維化に関わる遺伝子を発見

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

video: Genetic variant linked to prognosis of chronic hypersensitivity pneumonitis view more 

Credit: Professor Yasunari Miyazaki, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科統合呼吸器病学分野の宮﨑 泰成教授、瀬戸口 靖弘特任教授、片柳 真司大学院生の研究グループは、101例の慢性過敏性肺炎の遺伝子多型解析の結果から、自然免疫系の主要な制御因子であるTOLLIP遺伝子の一塩基多型が早期の呼吸機能の悪化に関連することを明らかにしました。その研究成果は、国際科学誌Chest(チェスト)に、2021年8月19日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】
 過敏性肺炎は抗原を反復吸入することで発症する、免疫・アレルギー機序に由来する間質性肺炎として知られています。このうち、慢性過敏性肺炎は潜在性に肺が線維化する予後不良な疾患です。これまで、過敏性肺炎では1.家族集積性が報告されていること、2.同一居住環境において感作が成立しているにも関わらず発症の有無に個体差が存在すること、3.同じ抗原であっても臨床経過に多様性があること、などから発症や経過に遺伝的素因が関与する可能性が考えられてきました。しかしながら、病態の修飾に関わる原因遺伝子とその詳しいメカニズムは明らかになっていません。

【研究成果の概要】
 本研究グループは、これまでの基礎研究および臨床研究で培ってきた知見を活用し、自然免疫の中心的役割をなすToll-like receptor経路を負に制御するToll-interacting protein(TOLLIP)に注目して101例の慢性過敏性肺炎の患者の遺伝子多型を解析しました。その結果、TOLLIPの多型と臨床的特徴との関連を調べたところrs5743899のGG遺伝子型が努力性肺活量(FVC)の急速な悪化と関連しており、これは後ろ向きコホート、前向きコホート、およびそれらを組み合わせたコホートで再現されることが見出されました。
 さらに、rs5743899は肺におけるTOLLIPの転写および翻訳産物の発現量に関連する機能的変異であり、rs5743899のGG遺伝子型では肺組織でSmad2とIκBのリン酸化が増加し、血清中のperiostin、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α、およびIFN-γの値が高いことが示されました。このことから、rs5743899は慢性過敏性肺炎の患者の肺におけるTOLLIPの遺伝子発現の変化を介してSmad/TGF-βおよびNF-κBシグナル伝達の亢進をもたらし、最終的に肺の線維化の進行と炎症の持続に関連すると考えられます。
  

【研究成果の意義】
 従前の慢性過敏性肺炎に対する治療はステロイド薬や免疫抑制薬が主体であり、それでも疾患が進行し、呼吸機能が悪化し続ける症例における有効な治療法はありませんでした。近年になって進行性線維化を伴う間質性肺疾患に対して抗線維化薬の投与が承認されるようになりましたが、早期より診断・治療介入を開始することの重要性に対する認識が広がりつつある一方で、疾患の進行を確認しなければ抗線維化薬を導入できないという問題を抱えていました。
 こうしたアンメット・メディカル・ニーズの中、本研究によりTOLLIP遺伝子のrs5743899が早期治療導入を評価する一つの遺伝子マーカーになり得る可能性が示唆されました。また、TOLLIPにより過剰な炎症や線維化に関わる様々なシグナル伝達を抑制できる可能性があり、将来的にはシグナル伝達の異常な活性化により引き起こされる臓器の線維化に対する治療に応用できる可能性を秘めています。

【用語解説】
※1Toll-interacting protein (TOLLIP)
TOLLIPは2000年にInterleukin-1 receptor accessory proteinをbaitとするtwo-hybrid screening法によって同定された分子量約30kDaのアダプター蛋白である。Interleukin-1 receptor-associated kinase 1(IRAK-1)と複合体を形成し、その自己リン酸化を抑制することで自然免疫の中心的役割を果たすToll-like receptor経路を負に制御する。
 


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