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ナノポアを形成する新規ベータシートペプチドを設計しDNAおよびタンパク質1分子を検出することに成功

Peer-Reviewed Publication

Tokyo University of Agriculture and Technology

image: De novo design of a nanopore for single-molecule detection that incorporates a β-hairpin peptide view more 

Credit: Ryuji Kawano, Tokyo University of Agriculture and Technology

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司教授と同大学大学院生 清水啓佑(当時)、宇佐美将誉、溝口郁朗、甲南大学の臼井健二准教授、国立大学法人横浜国立大学の川村出准教授らのグループでは、人工設計したペプチド(注1)により「ナノポア(注2)」を作製し、分子(DNA、タンパク質)の検出に成功しました。本技術は、1分子をラベルフリーで検出可能なバイオセンシング技術であるナノポアセンシング(注3)や、分子認識により外部環境を認識し自律的に動く分子ロボット(注4)への応用が期待されます。

本研究成果は、Nature Publishing Groupが発行するNature Nanotechnology20211122日付)に掲載されました。

DOI : 10.1038/s41565-021-01008-w

論文名: De Novo Design of a Nanopore for Single-Molecule Detection that Incorporates a β-Hairpin Peptide

: Keisuke Shimizu, Batsaikhan Mijiddorj, Masataka Usami, Ikuro Mizoguchi, Shuhei Yoshida,

Shiori Akayama, Yoshio Hamada, Akifumi Ohyama, Kenji Usui, Izuru Kawamura, and Ryuji Kawano*

現状

 タンパク質は、DNAの複製や酵素反応など、生体内のさまざまな機能を担う分子です。生命科学の分野では、生物が持つタンパク質のアミノ酸配列を修飾し、機能の一部を改変したタンパク質が多く作製されています。さらに、近年研究が進められているde novo設計と呼ばれる手法では、生物由来のタンパク質とは全く異なるアミノ酸配列を設計することで、望みの構造や機能を持つタンパク質を創り出すことが可能です。

一方、ナノポアセンシングはナノ細孔を通過する一分子を電気的に検出する方法で、近年高速・安価なナノポアDNAシーケンサが実用化されています。この方法では検出対象の分子の大きさや形状によって適切なナノポアを用いる必要があり、ナノポアのサイズや形状の精密制御が課題でした。そこで、新規人工タンパク(ペプチド)設計により、様々なサイズや形状を持つナノポアを作製することで、その課題を解決可能だと考えられます。既に人工設計されたタンパク質やペプチドによるナノポアの構築は報告されていますが、これまで一分子検出に適したサイズのナノポアを作るのは簡単ではありませんでした。

研究体制

 本研究は、東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司教授と大学院生 清水啓佑、宇佐美将誉、溝口郁朗、甲南大学の臼井健二准教授、横浜国立大学の川村出准教授、モンゴル国立大学のBatsaikhan Mijiddorj博士らのグループらによって実施されました。本研究はJSPS科研費基盤(A19H00901、挑戦的萌芽17K19138、新学術領域「発動分子科学」19H05382「分子ロボティクス」15H00803の助成を受けたものです。

研究成果

 本研究では、de novo設計によりナノポアを形成するペプチドを作製し、そのナノポアを用いた分子検出を試みるため、ベータシート構造(注5)を持つ人工ナノポア形成ペプチドを設計しました。作製したペプチドが設計通り脂質膜中で会合しベータバレル構造のナノポアを形成していることを確認しました。ただし、分子検出のためにはナノポアの高い構造安定性が必須です。そのため、測定条件を探索・最適化し、ナノポアの構造安定性を向上させました。その結果、設計したナノポアを利用し一分子DNAの検出に成功しました。さらに一分子のポリアミノ酸検出を行うため、そのペプチドナノポアの一部を再設計することで、アミノ酸検出に適したポアサイズを形成するナノポアを作製し、1本鎖ポリアミノ酸(タンパク質)の検出に成功しました。 

今後の展開

 本研究ではナノポア形成ベータシートペプチドをde novo設計し、そのナノポアを利用した一分子検出に成功しました。本成果はナノポアセンシングにおいて、検出対象の分子に適したナノポアを作製する手法であり、今後アミノ酸シーケンスの実用化に向けて重要な技術となります。また、細胞サイズの分子ロボットに搭載し外部環境を認識するための分子認識センサーとしての応用も期待されます。

1)ペプチド

アミノ酸100残基以下の短鎖のタンパク質。

2)ナノポア

膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。

3)ナノポアセンシング

ナノポアに分子(DNAやタンパク質等)を通過させ、それを電気的に検出する技術。

4)分子ロボット

ロボット工学の方法論を導入して分子をシステム化し、高度な「感覚」・「知能」・「運動」を有するプログラム可能な人工分子システム。

5)ベータシート構造

タンパク質の二次構造の1つ。アミノ酸の主鎖の水素結合により形成されたシート状の構造。 

研究に関する問い合わせ

東京農工大学大学院工学研究院

生命機能科学部門 教授

川野 竜司(かわの りゅうじ)

TEL/FAX0423887187

E-mailrjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 


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