News Release

2020年の緊急事態宣言が 神戸市小児の気管支喘息による受診数に及ぼした影響

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

image: Patients aged 0-15 with bronchial asthma in the years 2011 to 2020 (Kobe, Japan) view more 

Credit: Modified version of Yamaguchi et al., Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 11407.

神戸大学大学院医学研究科小児科学分野の山口 宏 特命助教と野津寛大 教授および神戸こども初期急病センターの石田明人センター長らの研究グループは、2020年の緊急事態宣言が神戸市の小児の気管支喘息※1による受診者数に及ぼした影響を調べました。

調査は2011年から2020年の間に神戸こども初期急病センターを受診した患者を対象に行われました。まず2019年までのデータから、春と秋に明確に2つのピークを認め、また、小児の喘息発作は気温の上昇と有意な関連があることが分かりました。さらに5歳以下の小児では大気中の二酸化硫黄(SO2※2レベルが高いほど発作を起こしやすいことも明らかになりました。2020年の平均気温は例年通りでしたが、緊急事態宣言中であった春はSO2が有意に低下するとともに気管支喘息患者数が減少し、宣言解除後の秋は例年通り患者数のピークを認めました。これは、人的交流や社会活動の活発化によるウイルス感染症の増加や大気汚染物質SO2への暴露が喘息発作の発症に関係していると推測されます。

この研究成果は、10月29日付で国際科学雑誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」にオンラインで掲載されました。

ポイント

  • 2011年から2020年に気管支喘息で神戸こども初期急病センターを受診した患者を対象として調査を実施した。
  • 2019年までのデータでは、春と秋に明確なピークを認め、また、小児全体では気管支喘息患者数と平均気温上昇に有意な相関を、さらに5歳以下の小児では大気中の二酸化硫黄(SO2)レベルの上昇と有意な相関を認めた。
  • 2020年は緊急事態宣言により神戸市の大気汚染物質は例年より明らかに少なくなり、SO2も有意に低下した。
  • 2020年の緊急事態宣言中であった春にはピークを認めず、宣言解除後であった秋には例年通りピークを認めた。これは、SO2の低下や緊急事態宣言による社会活動量の減少、社会的隔離による交流の減少から、何らかの感染症や、環境汚染物質への暴露が減ったことや、手洗いやマスクをつけることによる子供たちの衛生環境の改善などが関係すると推測される。

研究の背景
気管支喘息の環境要因は多くの国で報告されており、感染症(ライノウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスなど)、気象要因(気温、気圧、湿度など)、アレルゲン(花粉や黄砂)そして大気汚染物質(SO2、二酸化窒素(NO2)、PM2.5など)などがあります。しかし神戸市の小児における気管支喘息への環境要因の影響は不明で、気管支喘息患者数の季節や年による変化の報告もありませんでした。また、2020年のコロナウイルス感染症拡大により発令された緊急事態宣言が、神戸市のこども達の気管支喘息受診数にどのような影響を及ぼしたかも不明でした。

研究の内容
2011年から2020年の間に気管支喘息でこども初期急病センターを受診した16歳未満の全患者合計278,465人のうち、気管支喘息と診断された患者7,476人を調査しました。これは単一施設の気管支喘息受診患者調査としては最大規模の患者数です。

まず2011年から2020年の気管支喘息患者数の推移を調べました。その結果、気管支喘息患者数は、2011年から2019年の間は明らかな春と秋のピークを認めたのに対して、2020年の緊急事態宣言下の春にはピークを認めず、解除された秋には2019年とほぼ同数の患者数のピークを認めました(図1)。次に、2020年の気管支喘息患者数の変化の要因を調べるために、2011年から2019年間に神戸市ではどのような環境要因がこども達の気管支喘息と関係があったのかを調べました。その結果、小児全体では喘息で受診する患者数の増加と平均気温の上昇に有意な相関関係を認め、さらに5歳以下の小児では大気中のSO2濃度上昇と有意な相関関係が示されました。その他の天候や大気汚染物質、インフルエンザウイルスやRSウイルスなどの感染症の患者数、台風や黄砂、花粉などは相関関係を認めませんでした。

緊急事態宣言発令後、2020年神戸市の大気汚染物質は例年より明らかに少なくなり、SO2も有意に低下していました(図2)。2020年の春に喘息患者数のピークを認めなかったことは、SO2の低下や緊急事態宣言による社会的隔離による人的交流の減少、手洗いやマスクをつけることによる衛生環境の改善による影響と考えられ、2020年の秋のピークの再現はこども達の交流増加による感染症の罹患や、社会活動の増加に伴う環境汚染物質の増加、およびそれらへの暴露機会の増加の可能性が考えられました。

今後の展開
気管支喘息は寒い日や台風の前後に多いなどと言われることがありますが、今回の研究により、神戸市では気管支喘息はむしろ気温が高い日に起きやすく、また特に就学前のこども達は大気汚染物質のうちSO2が気管支喘息に影響することがわかりました。気管支喘息発作は春と秋に多いため、気温の高い日に長い外出を控えたり、工場や車などの排気ガスが多い場所はなるべく避けることが予防になる可能性があります。また、緊急事態宣言解除後の人的交流・社会活動の増加が、気管支喘息患者数の増加に関係しており、喘息の既往のあるこども達はマスクや手洗いうがいなどの良好な衛生環境も、予防に重要であると考えられます。

用語解説
※1 気管支喘息

気管支喘息は空気の通り道の気管支が狭くなり、「ゼーゼー」と呼吸音がし始めて、呼吸が苦しくなることを繰り返す病気。重症化すると呼吸ができなくなり、死亡する場合もある。
※2 二酸化硫黄(SO2
石炭や石油を燃やすことで発生する。工場などから発生して酸性雨の原因となり、また、四日市ぜんそくの原因物質であることも知られている。呼吸に関係する病気を引き起こす。

論文情報
タイトル
“Impact of the state of emergency during the COVID-19 pandemic in 2020 on asthma exacerbations among children in Kobe city, Japan”
DOI:10.3390/ijerph182111407
著者
Hiroshi Yamaguchi *, Kandai Nozu, Shinya Ishiko, Hiroaki Nagase, Takeshi Ninchoji, China Nagano, Hiroki Takeda, Ai Unzaki, Kazuto Ishibashi, Ichiro Morioka, Kazumoto Iijima, Akihito Ishida
掲載誌
International Journal of Environmental Research and Public Health


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