News Release

「歯周病の発症・進行に関する新たな知見」 ― 早期発見・早期治療のターゲットとなる細菌群を特定 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: The bacterial activity of a healthy site was defined as 1. The activities of several taxa were higher than that of red complex bacteria (e.g., Porphyromonas gingivalis). view more 

Credit: Department of Periodontology, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野の根本昂大学院生、芝多佳彦助教、竹内康雄講師、岩田隆紀主任教授らの研究グループは、口腔内の健常、歯肉炎、歯周炎部位から採取されたプラーク(細菌叢)中のRNAを解析することで、疾患の進行に寄与し、病態を特徴づける指標となる細菌を明らかにしました。これは歯周病の早期発見・早期治療を実践する上で、細菌学的な手がかりとなるものです。この研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は国際科学誌mSystemsに2021年10月26日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】
 歯周病は歯の喪失を生じ口腔機能の低下を招くだけでなく、近年では全身の健康へも悪影響を与えることが示唆されている病気です。歯周病は、局所的な歯肉の炎症を特徴とした可逆的な疾患である歯肉炎と、炎症が歯周組織深部まで達し、不可逆的な歯槽骨破壊を引き起こす歯周炎とに大別されます。いずれも歯周局所の細菌叢が病原性の高いものへと変化することで生じる疾患とされ、健常部位と歯周病罹患部位ではその細菌組成が異なることが報告されています。一方で、全ての歯肉炎が破壊的な歯周炎の前駆症状か否かについては、依然として議論がなされています。また、数多くの病原性細菌の中で、どのような細菌の活動性が高いのか、またそれらの果たしている機能がどのようなものかについては十分な理解が得られていませんでした。

【研究成果の概要】
 本研究では、東京医科歯科大学病院歯周病科に来院された21人の患者の口腔内から、健康、歯肉炎、歯周炎部位の歯肉縁下プラークを採取し、RNAを抽出、メタトランスクリプトーム解析※1およびネットワーク解析※2を行い細菌組成や遺伝子発現パターンを各部位で比較しました。その結果、歯周病の進行に伴い、レッドコンプレックス※3の活動性が高くなることが確認された一方で、これらの細菌以上に活動性が高い細菌(Fretibacterium fastidiosum、Eubacterium nodatum、Filifactor alocis、Eubacterium saphenumなど)が存在することが明らかになりました(図1)。   また、細菌間のつながりを示すネットワーク解析を行うと、健常な部位と歯周炎の部位では明らかに異なる種類の細菌によりネットワークが構成されていましたが、歯肉炎ではこれら2つの特徴を含む、より複雑なネットワークが形成されており、歯肉炎部位は健常部位と歯周炎部位の中間的疾患ステージであることが細菌学的にも確認されました(図2)。さらに歯肉炎ネットワークを構成する細菌種のうち、E. nodatum,E. saphenum,F. alocis,F. fastidiosum,Mogibacterium timidum,Treponema denticolaなどは、ネットワーク構成の中核をなしており、活動性も高いため疾患の進行において重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。
 遺伝子発現パターンの結果からは、細菌の走化性と鞭毛の集合が疾患の進行と関連していることが示されました。これらの遺伝子発現はF. alocisF. fastidiosum、およびレッドコンプレックスの存在と関連するとの報告があり、これを支持する結果がえられました。
 
【研究成果の意義】
 歯周病罹患部位の細菌叢は健常部位と異なることがこれまでも報告されていましたが、これらの研究は細菌のDNA情報に基づき解析されたものがほとんどでした。この場合、プラーク中の死菌に由来する情報も含まれてしまうため、細菌叢の活動性までを適正に評価することはできません。そこで本研究では、生細菌のみを評価するため、細菌のRNAを解析対象とすることで、臨床症状をより正確に反映した細菌叢解析が可能となりました。その結果、特定の細菌種が従来歯周病原細菌とされてきた細菌種以上に、疾患の発症や進行に伴い活動性が高くなることが明らかになりました。また遺伝子発現解析も行うことで、活動性の高い細菌がどのような遺伝子を発現し、その病原性に関わるのかについても明らかにすることができました。
 本研究結果は、活動性の高い複数の特定細菌種が協調しその病態形成に重要な役割を担っている可能性を示唆するとともに、これら細菌学的情報を指標とした歯周病の早期発見・早期治療法の開発も可能ではないかと考えられました。

【用語解説】
※1 メタトランスクリプトーム解析
サンプル中の細菌を単離、培養せず、細菌の保有するRNAの配列を読み取り、菌種の構成、発現している遺伝子を特定する方法。
※2 ネットワーク解析
相関する細菌や遺伝子に線を引き可視化することで重要となる細菌や遺伝子を選定する解析手法。
※3 レッドコンプレックス
アメリカの細菌学・歯周病学の研究者であったSigmund Socranskyが1996年に提唱した、歯周病の発症に特に関連が深いとされる歯周病細菌3種(Bacteroides forsythus(現在名Tannerella forsythia)、Porphyromonas gingivalis、Treponema denticola)のこと。
 


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