News Release

家族性アルツハイマー病患者の発症年齢別アミロイドβ産生量の差と仕組みを解明 ~新たな治療法開発と発症予防につながる可能性~

Study reveals unique mechanisms of amyloid beta generation in familial forms of Alzheimer’s caused by mutations in presenilin 1

Peer-Reviewed Publication

Doshisha University

家族性AD発症年齢とAβ産生経路の変化

image: In this study, γ-secretase was extracted from wild type (WT) cells and cells carrying FAD-related genetic mutations (mutations in presenilin 1: L85P, I143T, H163R, L166P, G206V, I213T, M233T, C263F, E273A, E280A, L286V, G384A, and delta E9). The enzyme was mixed with its substrate in vitro to generate Aβ, the amyloid intracellular domain (AICD), and other peptides. Given the varying levels of Aβ in the samples, the data were normalized to AICD levels. The ratio of VIVIT (peptide released during the enzymatic cleavage of Aβ48 to Aβ43) to AICD was correlated with the age of onset. The open circle indicates WT enzyme, and the closed circles indicate FAD mutant enzymes. All experiments were repeated in triplicate. view more 

Credit: Image credit: Nobuto Kakuda from Doshisha University

1. 本研究のポイント

  • 健常な人や一般的なアルツハイマー病(AD)患者と家族性AD患者の脳脊髄液注1を比較すると、家族性AD患者のほうがアミロイドβ(ベータ)タンパク質が全体的に低濃度であるが、そのうちの1つ「アミロイドβ43」は濃度が低くなっていない。
  • アミロイドβ産生を促す酵素に家族性ADの遺伝子変異を導入した培養細胞の観察で、患者の脳内でのアミロイドβ産生が模倣され、産生ルートの再現・分析に成功した。
  • その結果、家族性ADでは遺伝子変異に基づいた特殊なアミロイドβ43産生経路が発生しており、発症年齢によって産生量に差があるという共通の法則を発見した。

2. 研究の背景

物忘れの症状を呈する認知症は、誰もがなりうる可能性のある疾患です。厚生労働省の予測では、認知症のうち7割を占めるAD(アルツハイマー病)の日本国内の患者数は、2025年におよそ500万人にも上るとされています。

ADの原因となるAβは認知機能が正常な時期からゆっくりと脳内に蓄積し、10年以上の時間をかけて蓄積量が一定を超えるとADを発症します。一般的なAD患者は遺伝子を見ても健常なヒトと違いはなく、Aβが蓄積する原因はまだ解明されていません。

一方、生まれつきAβ産生に関わる遺伝子変異をもつAD患者も存在します。その割合はAD患者全体の1%以下と極めて少なく「家族性AD」と呼ばれています。家族性AD患者では、一般的なADよりも早い年齢でAβの蓄積が始まり、65歳以前に発症する人も多くいます。また蓄積するAβの種類にも違いがあり、一般的なAD患者では「Aβ42」が多いのに対し、家族性AD患者では43アミノ酸残基の「Aβ43」が多いのが特徴です。

なぜ家族性ADではAβ43が多くなるのか?という疑問に対し、本研究では患者由来の検体および患者の遺伝子変異を導入した培養細胞を用いて、Aβ43が多く産生される仕組みや原因を明らかにしました。

3. 研究の成果

過去、私たちの研究チームは、認知機能が正常な方(健常人)、軽度認知障害注2(MCI)およびAD患者から採取した脳脊髄液(CSF)や剖検脳を用いて解析した結果、Aβを作り出す酵素(γ-secretase)の活性がそれぞれ異なることを発見しました(Kakuda et al, EMBO Mol. Med, 2012)。本研究ではこの結果をもとに、家族性ADのAβ産生についてさらに検討しました。

まず、家族性AD患者より採取したCSFを測定した結果、いくつかの検体で高濃度のAβ43がみられました。またこの結果は家族性ADの遺伝子変異をもつγ-secretase(酵素)を発現させた培養細胞でも再現されました。

γ-secretaseによってAβが規則的に産生される経路は主に2パターン存在します(Takami et al, J Neurosci, 2019)。それぞれの経路では、ハサミの役目をするγ-secretaseにより、アミノ酸配列の長いAβから短いAβが産生されます。上記の培養細胞を用いて、この規則性について解析したところ、遺伝子変異のない場合と比較して、通常のAβ産生にみられる規則性に異常は見られませんでした。ところが家族性ADの遺伝子変異をもつ培養細胞内では、一部のAβ産生経路が違っており、片方のAβ産生経路からもう一方へと経路が大きく変わっていることが判明しました。さらに重要な点として、発症年齢が早期であるほどこの経路が変更される割合が多く、その結果Aβ43が多く産生されることがわかりました(図)。

家族性AD患者では発症年齢が若いほど遺伝子変異によるAβ43の産生量が多いこと、またその詳細な機序について初めて明らかにしたことが本研究の重要な成果となります。

4. 今後の展開

家族性AD患者では、生まれつき遺伝子変異を持つために、生後すぐから徐々に今回明らかになったようなAβ産生の変化が起こります。
現在の重要な課題として、発症するまで認知機能が正常である理由が、Aβが蓄積するまでに時間を要するためなのか、それともある時期に蓄積を防御するシステムが破綻するためなのかという点がまだ分かっていません。
今後、培養細胞やモデル動物を用いてその原因を明らかにすることで、これまでとは異なった新たな治療法や予防法の確立を目指していきます。

5. 研究成果の公表

本研究成果は、2021年11月3日10時(日本時間)に科学雑誌Translational Psychiatry(トランスレーショナル サイカイアトリー)に掲載されました。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「脳科学研究戦略推進プログラム」と「認知症研究開発事業」による支援で実施されました。

用語解説
注1 脳脊髄液: 頭蓋骨と脳の間、および脳室を覆う液体。外部からの頭部刺激に対する脳の保護、神経細胞等から排出された老廃物を脳外へ排出する。脳脊髄液中のタンパク質は、神経細胞の状態を反映している。
注2 軽度認知障害: 本人またはご家族から記憶障害が認められるが、日常生活に大きな支障はなく、自立した生活を営める状態で認知症ではない。
 


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