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完全ダイヤモンド合成:興味深い幾何学パターンを示すシミュレーション

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

シミュレーションモデルの模式図

image: 成膜前の基板にシーディングされた結晶粒が成長する様子をシミュレーションするために、本研究で使用したモデルの模式図。研究チームは、無孔質膜と多孔質膜の両方の合成を調査した。 view more 

Credit: OIST

  • 本研究では、多孔質と無孔質の多結晶ダイヤモンド膜の両方を実験室でより効率的に合成させるため、シミュレーションを実施。

  • 天然石の特性を多くもつ合成ダイヤモンド膜は、生物医学や量子学の分野等に応用できる可能性がある。

  • 本研究のシミュレーションにより、理想的な結晶粒径や初期の粒度分布など、成膜の際にどのようなことができるか展望が見えた。

  • また、シミュレーションによって、多くの科学・工学分野で見られるボロノイ図をはじめとする、本膜の興味深い幾何学的特性が明らかになった。  

  • 最後に、ピンホールの残存率を調査し、ついに無孔質膜にピンホールが残る確率を最小限に抑える方法を検討することに成功した。

「ダイヤモンド」という言葉は、私たちに強さや富、地位等のさまざまなイメージを想起させます。しかし、それとは別に、ダイヤモンドには物質・材料としての科学的な用途もあります。透明で、極めて硬く、生体組織に危険な影響を及ぼさない物質・材料です。近年、超精密多結晶ダイヤモンド膜を実験室で成膜する研究が始まっています。このような膜は、天然石としてのダイヤモンドが持つ特性を多く備えており、生物医学やセンサーなど数多くの応用が期待されています。さらに、炭素により素性されているため、他の物質・材料のように高価で稀少性のある素材を必要としません。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の力学と材料科学ユニットのスタッフサイエンティストであるストフル・ヤンセンス博士は、多孔質と無孔質、両方の多結晶ダイヤモンド膜の合成をシミュレーションしました。多孔質ダイヤモンド膜は、膜全体に孔が散在しているもので、将来的には、ニューロンなどの細胞を増殖させる基盤として利用できる可能性があります。今回のシミュレーションでは、膜の中の興味深い幾何学的構造を明らかにするという成果を上げ、その論文が科学誌Acta Materialiaに掲載されました。

ヤンセンス博士は、次のように説明します。「今回のシミュレーションにより、実験室でどのような研究ができるかという展望が見えてきました。現在、多孔質膜の成膜は、複雑な技術を必要とします。私たちは、シンプルかつ費用対効果の高い方法で成膜できるようにしたいと考えています。シミュレーションにより、膜をどのくらいの期間成長させればよいのか、結晶粒はどのくらいの大きさが適当か、そしてその結果からどのようなことが期待できるかが明らかになりました。」

多結晶ダイヤモンド膜を成膜するには、ナノダイヤモンド粒子を基板上にシーディングします。これらの結晶粒は、適切な条件下でダイヤモンドの柱状結晶に大きくなり、増大して互いに接合します。時間の経過とともに、これらの接合が強化し、頑丈な材料ができあがります。ヤンセンス博士と共同研究チームは、結晶粒径や初期の粒度分布をさまざまに変えて二次元シミュレーションを行い、結果を詳細に観察しました。その結果、ダイヤモンド膜が成長するにつれて、結晶粒の間に形成される結晶粒界が、ある有名な形を描くことが明らかになりました。

ヤンセンス博士は次のように説明しています。「これは“ボロノイ図”と呼ばれていて、細胞や骨の構造をモデル化する生物学者から、感染症の原因を特定する疫学者や、森林の林冠の発達パターンを研究する生態学者まで、科学や工学のさまざまな分野で知られています。」

結晶粒の密度を変えると、さまざまな形が現れました。初期の粒子密度を高くすると、孔が幕全体に均一に分布したハニカム(ハチの巣)構造のような形になり、低くすると、孔の分布が均一ではなくなることがシミュレーションで示されました。 

また、ヤンセンス博士は、膜の成長過程の各段階で起こる位相的な変化についても調べました。最初に顕著な変化がみられるのは、すべての結晶粒が接合して多孔質膜を形成するときです。そして2つ目の変化がみられるのは、結晶粒同士が強く接合して、ピンホールのない無孔質膜になるときです。研究チームは、このシミュレーションを基に、ピンホールの残存率を調査し、最終的に無孔質膜にピンホールが残る確率を最小限に抑える方法を検討しました。

OIST力学と材料科学ユニットを率いるエリオット・フリード教授は、次のように説明しています。「今回のダイヤモンド多結晶膜のシミュレーション結果は、連続体パーコレーション理論の分野に寄与するものです。本研究を通して、実験室で効率的な成膜を行うために役立つ実用的な洞察を得ただけでなく、ダイヤモンドやその他のさまざまな物質・材料の多結晶膜の合成に関連する基礎的な位相幾何学や幾何学の問題について理解を深めることができました。今回の研究成果を、生物医学や量子デバイスなどに応用可能な膜の開発に役立てたいと思います。」


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