News Release

硫化物系固体電解質の量産技術開発

高イオン伝導性Li7P3S11固体電解質の短時間合成

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

本手法におけるLi7P3S11の反応プロセス

image: 本手法のLi7P3S11の液相合成工程(上)、反応メカニズム(下)。 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系の博士後期課程 蒲生 浩忠、西田 仁 特任助教、永井 篤志 特任准教授、引間 和浩 助教、松田 厚範 教授らの研究グループは、全固体リチウムイオン二次電池用Li7P3S11固体電解質の量産技術を開発しました。本手法は、アセトニトリル(ACN)とテトラヒドロフラン(THF)、微量のエタノール(EtOH)の混合溶媒に、Li7P3S11の出発原料であるLi2SとP2S5とともに硫黄(S)を過剰に添加することで、従来では24時間以上必要であった反応時間をわずか2分まで短縮しました。本手法によって得られた試料は、不純物相を含まない高純度なLi7P3S11であり、25 oCで1.2 mS cm-1の高いイオン導電率を示しました。本成果により、全固体電池用硫化物系固体電解質を低コストで大量に製造することが可能になります。本研究成果は、Advanced Energy and Sustainability Researchに2022年4月28日付けでオンライン公開されました。

 

<詳細>

全固体電池は、高い安全性を有するだけでなく、高エネルギー密度化や高出力化などが可能なため、電気自動車(EV)用途の次世代電池として期待されています。全固体電池のEVへの適用に向けて、優れたイオン伝導性と可塑性を示す硫化物固体電解質の材料開発がこれまで活発に進められてきました。しかし、硫化物固体電解質は大気中で不安定であり、合成・加工プロセスで雰囲気制御を必要とするため、実用化レベルの量産技術は確立していません。そこで、硫化物固体電解質の低コストかつ量産に適する液相製造技術の開発が急務となっています。

Li7P3S11固体電解質は高い導電率を示すため、全固体電池用固体電解質の候補の1つです。Li7P3S11の液相合成では、一般的にアセトニトリル(ACN)反応溶媒中で不溶性化合物を含む前駆体を介して合成されます。このような従来の反応プロセスは、不溶性である出発原料から不溶性中間体への速度論的に不利な反応を経由するため、長時間を要します。また、この不溶性中間体は複雑な相形成による不均一性を引き起こし、大量製造の際に製造コストを増大させる懸念があります。

そこで、当研究グループは均一な前駆体溶液を介した高イオン伝導性Li7P3S11固体電解質の液相製造技術の開発に取組みました。今回開発した手法では、Li7P3S11の出発原料であるLi2SとP2S5とともに過剰なSをACNとTHF、微量のEtOHの混合溶媒に添加することで、可溶性多硫化リチウム(Li2Sx)を含む均一な前駆体溶液をわずか2分で得ることができました。本手法において、微量EtOHと過剰Sの添加による多硫化リチウム形成の2つが短時間合成のカギとなります。

本手法の反応メカニズムを解明するために、EtOH添加の有無によるLi2Sxの化学安定性を紫外可視(UV-Vis)分光法により調査しました。その結果、EtOHの存在により、Li2Sxの化学安定性が向上していることがわかりました。したがって、本手法における反応は以下のステップで進行すると考えられます。まず、Liイオンが高極性溶媒であるEtOHと強く配位します。次に、多硫化物イオンがLiイオンから遮蔽されることで、多硫化の一種であり、高い反応性を有するS3-ラジカルアニオンが安定化します。生成されたS3-がP2S5を攻撃することでP2S5のケージ構造が開裂され、反応が進行します。その反応により形成したチオリン酸リチウムは、高い溶解性を有するACNとTHFの混合溶媒中に溶解するため、非常に短い時間で均一な前駆体溶液が得られたと考えられます。最終生成物であるLi7P3S11は、反応過程でボールミリングや高エネルギー処理を必要とせず2時間で調製することができました。

本手法により得られたLi7P3S11のイオン導電率は25 oCで1.2 mS cm-1であり、従来の液相合成法(0.8 mS cm-1)や、ボールミリング処理(1.0 mS cm-1)により合成したLi7P3S11と比較して高い値でした。本手法は、硫化物固体電解質の新しい合成経路を提案し、低コストで量産性の高い製造技術を実現するものです。

 

<今後の展望>

研究チームは、本研究で提案する全固体電池用硫化物固体電解質の低コストな量産技術は、全固体電池を搭載したEV実用化にとって重要な技術になると考えています。本研究では、硫化物固体電解質としてLi7P3S11に注目しましたが、Li7P3S11以外の硫化物系固体電解質の製造へも発展させたいと考えています。

 

<論文情報>

Hirotada Gamo, Jin Nishida, Atsushi Nagai, Kazuhiro Hikima and Atsunori Matsuda, T Solution Processing via Dynamic Sulfide Radical Anions for Sulfide Solid Electrolytes, Advanced Energy and Sustainability Research, 2022, 2200019. doi.org/10.1002/aesr.202200019

本研究は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」(SOLiD-EV project、JPNP 18003) の一環として実施されました。


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