堆積物の漸進的な蓄積による標高の上昇は、海面の上昇に対する回復力の尺度となりうる一方で、堆積物の蓄積が速すぎると、湿地を沈降させ、代わりに湿地を沈ませる可能性がある、と四大陸から集められたデータについて研究している研究者らが報告している。今回の発見では海面上昇(SLR)を加速する気象に対する湿地の能力に対する新たな制約が明らかになっている。現代の観測と完新世の記録の間に以前あった不一致が調整されるものの、現行の気候変動予測の下では、世界中にある多数の湿地が海面上昇についていけないことも示唆されている。潮汐湿地は地球の生態系の中で最も脆弱なものの一つである。潮汐湿地は平均海面に対して厳密に定義された標高範囲においてのみ出現するため、潮汐湿地は加速する海面上昇からの増大する脅威の下にある。可能な場合、内陸側に徐々に忍び寄ることによって、潮汐湿地は海面上昇に対応することができるが、堆積物や有機物が垂直に蓄積すること(海面上昇に対して潮汐湿地が強靭になると思われる過程)によって標高を獲得している潮汐湿地があることも研究によって示されている。しかしながら、この回復力を評価すると、相反する結果が明らかになっており、これらの結果は場所に応じて現代の測定装置による観測と完新世の地質データの間で変化している。これらの不一致の根本原因は十分に理解されていないが、将来の海面上昇に直面している潮汐湿地の運命の予測にために理解するのが重要である。四大陸に跨る97ヵ所からの湿地標高調整データを比較することによって、Neil Saintilanは堆積と湿地沈下の間の関係を明らかにしており、海面上昇に対して応答が変動していることを説明している。湿地では徐々により多くの堆積物が付着し、標高を獲得し、遅い相対的SLRに追いつくことができるが、集積速度があまりに早くなる時点に到達することから、堆積物圧縮及び湿地沈下が発生することをSaintilanらは発見している。今回の著者らによると、堆積物沈下は堆積物の蓄積と共に非線形に増加するため、SLRの速度が速い場合、湿地は標高を獲得する代わりに、沈下し始める。したがって、湿地の標高獲得は海面上昇に関して制約を受けており、SLRが低速の場合において湿地回復力を促進することができるメカニズムによって、将来的に予測される加速された海面上昇速度の下では成功しないことがあり得る。
Journal
Science
Article Title
Constraints on the adjustment of tidal marshes to accelerating sea level rise
Article Publication Date
29-Jul-2022