News Release

集中治療を要する新型コロナウイルス感染症患者に対する レムデシビルと副腎皮質ステロイドの併用効果:TMDU観察研究

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Kaplan–Meier survival curves of patients with no remdesivir use, remdesivir use within 9 days, and remdesivir use with interval 10+ days. view more 

Credit: Department of Global Health Promotion, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授の研究グループは、東京医科歯科大学救急救命センター、集中治療部、臨床検査医学分野、画像診断・核医学分野との共同研究で、2020年4月~2021年11月の間に東京医科歯科大学病院の集中治療室に入院し、副腎皮質ステロイド投与を受けた168名の新型コロナウイルス感染症患者を解析し、発症から 9 日以内のレムデシビル投与は非投与と比較して死亡リスクを90%減少させることを明らかにしました。この研究成果は、国際学術誌Journal of Medical Virology (ジャーナルオブメディカルヴィロロジー)にオンラインで公開されています。

 

【研究の背景】

 新型コロナウイルス感染症患者に対するレムデシビルの有効性はいくつかの大規模臨床試験で検証され、回復までの期間を短縮する効果が報告されておりますが、死亡リスクを抑制する効果は証明されていませんでした。しかし、いくつかの研究結果から、発症から早期に投与されたレムデシビルは死亡リスクを抑えることが示唆されました。

 また、これまでのレムデシビルの効果を検証する臨床試験では人工呼吸器が装着された人たちを主要な対象としておらず、人工呼吸器や体外式膜型人工肺 (ECMO/エクモ) ※3を必要とする比較的少数の人たちに絞った解析では、レムデシビルの回復期間短縮効果がみられないことが分かっていました。日本全国の集中治療室の情報共有システムであるCRISIS (クライシス) によると、日本では人工呼吸器や体外式膜型人工肺 (ECMO/エクモ) を必要とする重症新型コロナウイルス感染症患者の生存率は他国に比べて良好でした。また、第1波から第5波での死亡率の変動が少ないことから、重症患者への医療の質は流行時期によらず比較的保たれており、このような背景のある日本でこそ、集中治療を要した新型コロナウイルス感染症患者に対して実際に行われた診療や治療を振り返って、レムデシビルの効果が検証されるべきだと考えました。

 そこで藤原武男教授の研究グループは2020年4月~2021年11月の間 (第1波から第5波) に東京医科歯科大学病院の集中治療室で治療を受け、副腎皮質ホルモンの投与を受けた新型コロナウイルス感染症患者168例を解析しました。レムデシビルは投与されるタイミングも重要であることが過去の研究で示唆されていたため、レムデシビルを投与された人は、発症から9日以内に投与された人と10日目以降に投与された人に分け、投与されなかった人たちとの死亡リスクを比較検証しました。この際、併存疾患、血液検査の結果、酸素需要量だけではなく、胸部CT画像で測定した肺炎の重症度も考慮した解析を行いました。

 

【研究成果の概要】

 対象者全体のうち、131例 (78%) が、観察開始日 (入院日または発症日どちらか遅い日) に高流量酸素または人工呼吸器による治療を受けていました。全期間における院内死亡率は32/168例(19.0%)で、第1波から第5波までで大きな違いはありませんでした。レムデシビルを投与していない人たちの死亡率は45.7% であったのに対し、レムデシビルを発症から9日以内に投与された人たちの死亡率は10.4% で、発症から10日目以降で投与された人たちでは16.2% でした。東京医科歯科大学病院の集中治療室に入院した新型コロナ感染症患者のカプラン・マイヤー生存曲線(図)を見てみると、時間の経過とともに死亡していない人(=生存している人)の割合が、それぞれのグループでどのように、どのくらい減っていくのかが視覚的に分かります。観察中に死亡が発生すると、生存曲線は下がって(=生存している人の割合が減少)いきます。発症から9日以内にレムデシビルを投与された人たちの生存曲線は、全観察期間を通してレムデシビルを投与されなかった人たちの生存曲線よりも高い位置にあり、9日以内にレムデシビルを投与された人たちは投与されなかった人たちよりも院内死亡が起こりにくかったことが分かります。さらに併存疾患の数、入院日、腎機能障害、肝機能障害、酸素需要量、胸部CTの肺障害の程度について考慮した生存分析を行った結果、発症から9日以内にレムデシビルを投与された人たちとレムデシビルを投与されなかった人たちのハザード比は0.10(95%信頼区間0.025~0.428)でした。これは観察期間中にレムデシビルを投与されなかった人たちの「院内死亡に関するハザード」を1とした時、発症から9日以内にレムデシビルを投与された人たちのハザードが0.10となること、つまり、発症から9日以内のレムデシビル投与によって、院内死亡がレムデシビル非投与と比較して90%抑制されることを意味しています。一方、発症から10日目以降でレムデシビルを投与された人たちでは、統計的に意味のある院内死亡の抑制効果は見られませんでした(ハザード比 0.42、95%信頼区間 0.12-1.52)。

 

【研究成果の意義】

 藤原武男教授の研究グループによる研究では、発症から 9 日以内のレムデシビル投与は非投与と比較して、集中治療を要する新型コロナウイルス感染症患者の死亡リスクを減少させることを明らかにしました。過去の臨床研究ではアジア人以外の人種が多く含まれていましたが、今回は日本人および4.8% の他地域のアジア人が対象であり、また、過去の臨床研究では主要なターゲットではなかった人工呼吸器や体外式膜型人工肺 (ECMO/エクモ) を必要とする人たちが対象であったことから、アジア人種および重症患者について、実臨床でのレムデシビルの効果を示すことができた点において、特に意義があります。

 

【用語解説】

※1レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴): 2000年5月7日に新型コロナウイルス感染症への使用について、特例承認を受けた抗ウイルス薬。2021年8月12日に保険適用された。

※2ハザード比: 統計学の用語。ハザードとは「時間」を考慮したイベント(今回の研究では院内死亡)発生率の指標で、ハザード比はその比をとったもの。相対的な危険度を比較する数値で、1未満であれば危険度の減少、1より大きければ危険度の増加を意味する。

※3体外式膜型人工肺 (ECMO/エクモ): ポンプで患者体内から血液を取り出し、人工肺で血中に酸素を与え、再び身体に返す仕組みで、肺 (と心臓) の機能を補助するための装置。


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