2023年の記録的な海洋熱波により、絶滅寸前の状態にあるフロリダ海域のミドリイシ属(Acropora)サンゴのコロニーのほとんどすべてが死滅し、フロリダ海域のサンゴ礁(FCR)における同種の機能的絶滅が認められたことが、研究者らにより報告されている。この所見は、急速に温暖化しつつある海洋におけるサンゴ生態系の将来に対する深刻な警告として捉えられる。海洋熱波などの極端な気候現象の頻度および強度の高まりは、世界中の生態系の健全性、構造、および回復力を著しく損なっている。海洋環境において最も水温の影響を受けやすいもののひとつであるサンゴ礁には、海洋水温の上昇によりここ数十年にわたり大量の白化と死滅がもたらされている。今回Derek Manzelloらは、フロリダ海域における2023年の海洋熱波による、絶滅に瀕している造礁サンゴであるミドリイシ属サンゴのエルクホーンサンゴ(Acropora palmata)およびシカツノサンゴ(Acropora cervicornis)に対する影響を評価した。Manzelloらによれば、FCRはこの未曾有の気候現象の間に、2023年7月には32.3℃に達し、同地域におけるこれまで記録された最高の海面水温に直面した。この熱波の持続期間中、ManzelloらはFCRの約560 kmの海域において、52,356の野生および復元されたミドリサンゴのコロニーの健全性を追跡した。その結果、2024年3月までに、フロリダキーズ諸島とドライ・トートゥガス諸島においてエルクホーンサンゴおよびシカツノサンゴのコロニーの97.8~100%が、長期にわたる極度の熱ストレスにより死滅したことが明らかになった。FCRの北部地域ではサンゴの死滅率が低く(37.9%)、これはフロリダ南東部沖の海水がより低温であったためと考えられる。Manzelloらは、2023年の海洋熱波によりカリブ海のフロリダ海域においてミドリイシ属サンゴの機能的絶滅が認められ、同地域で過去25万~50万年間にわたって形成されてきた造礁サンゴの「遺産」が消滅するに至ったと主張している。今回の所見はまた、これら熱感受性のサンゴ種のカリブ海全域における絶滅の始まりを予告するものとなる可能性がある。「積極的な介入として、熱耐性遺伝子やフロリダ海域外からの遺伝的多様性の導入や、藻類との共生操作などを行うことが、フロリダ海域におけるミドリイシ属サンゴの個体群を存続させるための唯一の方法であるかもしれない」と、著者らは記している。
Journal
Science
Article Title
Heat-driven functional extinction of Caribbean Acropora corals from Florida’s Coral Reef
Article Publication Date
23-Oct-2025