News Release

いかに脳内血管の「驚くべき網」がクジラの脳を泳ぐことで生じる変動から血圧を保護するか

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

奇網(retia mirabilia、「驚くべき網」の意)として知られる広範な血管構造が、水中に潜るクジラやイルカにおいて、水中を泳ぐときに生じる血圧の変動から脳を守る助けをすることが新たな研究により示されている。今回の結果は、クジラ類においてこれまで知られていなかった奇網の役割を明かにしており、泳ぎ方が異なる他の水棲脊椎動物には奇網が存在しないことを説明するものである。五千万年以上前に、現在のクジラ類の祖先である陸棲クジラ類は陸上生活を捨てて海洋に居を戻した。この革命的な移行には、水中で生活することに伴う特有の課題を生き抜くために、陸棲哺乳類の形態と生理学的条件における劇的な変化が必要となった。水中環境に伴う課題で最も大きいものの一つは、深海で外的・内的に経験される高い水圧に耐えると共に、酸素化された血液を安定して脳に供給することである。クジラ類は水中では呼吸を止めているが、力強い尾びれの運動によって水中でその大きな体を前進させることで、尾びれを動かすたびに上下する動脈・静脈血圧の変動(拍動性)のために、脳への血液供給が妨げられることになる。しかし、尾びれの運動によって生じる拍動性の上昇により引き起こされ得るダメージから脳を守るために、クジラ類がどのように適応したのかはほとんど理解されていない。そこでMargo Lillieらは、奇網がこの働きに関与しているかどうかを調べた。多くの陸棲動物の比較的単純な血管構造とは違って、クジラ類の胸部、髄腔内部、および頭蓋部には大きな血管構造が存在しており、その機能はいまだ不明である。Lillieらは、クジラ類11種の奇網の形態に基づいて奇網の血行動態モデルを作製したところ、奇網の大きな動脈の働きが、頭蓋と脊柱管における小さな血管外領域の働きと相まって、繊細な脳内血管構造を血圧の変動から保護する可能性があることが分かった。この「パルス転送」メカニズムにより、血圧変動そのものを弱めることなく、脳内の血圧を一定に維持することができる。関連するPerspectiveでTerrie Williamsは、この研究について詳細に論じている。


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