免疫チェックポイント阻害薬として知られる最先端のがん免疫療法薬は全ての患者で効果を示すわけではないため、研究者らは慢性炎症の治療薬であるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬を追加することで効果が上がるか否かを検討した。2つの臨床試験において、JAK阻害薬を追加することで、チェックポイント阻害薬によるがん患者の治療効果が改善することが示された「(両グループにより)報告された早期臨床試験の興味深い結果は別として、今回の2試験により、免疫応答に関する複雑な解析のデータが大量に得られた」と、関連するPerspectiveでMassimo GadinaとJohn O’Sheaは記している。「こうした複雑なデータが臨床診療にいかに用いられるか、また研究にいかに有用な情報を提供するかについて、今後の動向が興味深い」。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、通常は免疫系ががん細胞を標的として殺滅することを妨げるT細胞上のチェックポイントタンパク質を阻害することで作用する。ICIにより、一部のタイプのがんの治療は大幅に向上した。しかし、全てのがん患者がICIによる免疫療法で効果が得られるわけではない。また、がん患者には慢性炎症および免疫抑制がみられることが多く、これらもICI療法の効果を制限する可能性がある。
2つの臨床試験において、細胞内における炎症を予防するJAK阻害薬(jakinib)が、がん患者において抗PD-1抗体薬であるICIによる免疫療法の抗腫瘍効果を改善できるか否かが検討された。Divij Mathewらは第2相臨床試験を実施して、JAK1阻害薬itacitinibと抗PD-1抗体ICIペムブロリズマブとの併用について、転移性非小細胞肺癌(NSCLC)に対するファーストライン治療としての使用を検討した。その結果、ペムブロリズマブ投与後のitacitinibの遅延投与により、免疫療法の効果が改善することが示された。未治療のNSCLC患者21例を組み入れたこの研究の結果では、無増悪生存期間中央値は約2年であったのに対し、ICIのみを用いた他の複数の試験では6.5~10.3ヵ月であった。別の試験でJaroslav Zakらは、ICI投与を受けたことはあるが、効果がなかったか一貫した結果が得られなかった再発性または難治性のホジキンリンパ腫患者を対象とした第1/2相臨床試験の結果を報告している。Zakらは、JAK1およびJAK2阻害薬であるルキソリチニブと、抗PD-1抗体薬ニボルマブの併用に焦点を当てた。この結果によれば、ニボルマブ投与の開始8日前のルキソリチニブ投与により、過去にICI免疫療法で効果が得られなかった患者において臨床効果の改善が認められた。この試験に参加した患者19例において、全生存率は2年目で87%であったのに対し、以前にICI単独で報告された全生存率は23.8%であった。
ScienceのSenior EditorであるPriscilla Kellyは、こうコメントした。「これら2つの臨床試験が注目すべきであるのは、新たな治療戦略の可能性への道を開いているからである。両試験において、2つの異なるタイプのがんに対して、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬をチェックポイント阻害薬による免疫療法と併用することで、転移性非小細胞肺癌患者および再発性または難治性のホジキンリンパ腫患者において臨床効果に改善がみられた。転移性非小細胞肺癌患者を対象とした試験では、この併用療法がファーストライン療法として実施された。」
Journal
Science
Article Title
Combined JAK inhibition and PD-1 immunotherapy for non–small cell lung cancer patients
Article Publication Date
21-Jun-2024