新しい古生物学的発見からワイオミング州の「恐竜ミイラ」についての知見が得られ、カモノハシ竜の驚くほど保存状態の良い皮膚、スパイク、蹄は化石化した肉ではまったくなく、その個体が腐敗する過程で微生物によって形成された繊細な粘土細工であることが判明したと、研究者らは報告している。化石における軟組織の保存は通常、ラグーンや海底のような堆積物の粒子が細かく、酸素の少ない環境で起こるもので、それによって羽毛や皮膚といった繊細な構造の化石化が可能になる。しかし、1900年代初頭にワイオミング州東部で発掘されたいわゆる「恐竜ミイラ」、すなわち、化石化したと見られる皮膚のきめと肉質の体の一部を有するカモノハシ竜(Edmontosaurus annectens)のミイラは、粒子の粗い、酸素を豊富に含んだ河川堆積物の中での発見であったため、そのすばらしい保存状態は長年の謎であった。Paul Serenoらは、歴史記録を用いてこれらの原標本が1世紀以上も前に発見された場所を推定し、その場所で新たに発見されたEdmontosaurusの幼体と成体のミイラなどについて報告している。注目すべきことに、その幼体末期のミイラは亜成体恐竜としては初めてのもので、首と大きなとさかを含む肉の輪郭が完全に保存された初の大型恐竜でもある。成体の方は、尾に並んだスパイクを全て保持した初のハドロサウルス科で、知られている限り最古の蹄を持つ四肢動物でもあり、それゆえに蹄のある足を持つ初の爬虫類でもある。Serenoらによると、E. annectensの正中線上のとさかと尾のスパイクから、その皮膚は歴史的復元が示唆するよりはるかに複雑であったことが明らかになったという。現生爬虫類との比較からは、一部の現生有鱗目との機能的及び形態学的類似点が示された。Serenoらはまた、これらの特徴は本物の化石化した軟組織としてではなく、砂岩に囲まれた薄い粘土層(1ミリ未満)として保存されていることも明らかにしている。光学、CT、電子顕微鏡及びX線分光法を用いた詳細な分析では、粘土や周囲のマトリックス内に元の有機物を示すエビデンスは認められなかった。均一な粘土層は、元の細胞の複製ではなく、腐敗して行く死骸の上にバイオフィルムの助けを借りて表面テンプレート(surface template)として形成されたものと考えられる。粘土テンプレート化というこの仕組みだと、堆積物の粒子が荒くて酸素が多い河川堆積物の中でも他者の外皮形態を3次元で保存することが可能で、軟組織の特徴を化石化できる堆積環境の範囲が拡大する。
Journal
Science
Article Title
Duck-billed dinosaur fleshy midline and hooves reveal terrestrial clay-template “mummification”
Article Publication Date
23-Oct-2025